
Illustration: Takeuma
北国のある冬の日、私は八戸市立市民病院ERの自動ドアから急いで外へ出た。視線の先には「ドクターカーV3」。これまで出動を静かに待ち続けてきた、世界初の移動緊急手術室(処置室)だ。
救急出動で緊急性の高い患者に対処する際、現場で一刻も早く、何らかの手術を行いたいという思いがあった。しかし、従来の救急車では車内が狭く、手術の清潔野が確保できない。トラックタイプのドクターカーだと車内は広いが、運転が難しく、狭い道を走りにくいという難点があった。
そこで我々は、医師が運転できる乗用車タイプで、かつ十分な手術室の広さを確保したドクターカーV3を開発し、昨年、八戸ERに配置した。車内3列目のシートを取り払い、経皮的心肺補助装置(PCPS)と人工呼吸器、モニター、手術器具などを格納する。外見にもかなりこだわった。
私はドクターカーV3のエンジンを作動させた。後部席には、救急医と臨床工学技士(CE)が乗りこむ。「移動緊急手術室ドクターカーV3より消防八戸、これより溺水CPA現場、フェリー埠頭に出動します。車両動態管理システムで誘導お願いします」。消防無線で通信すると、まもなくカーナビに消防の遠隔操作による赤い誘導線が現れた。私はサイレンのスイッチを入れ、ギアをドライブに入れた。V3、発進だ。