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手術室が空いてない!

2013/11/26
今明秀

Illustration:Takeuma

 ある日、2歳の女児が道路で転んだ。いつもなら母親がすぐに抱き上げるが、その反応より早く、トラックが女児の上を通過してしまった。女児は泣き声を上げる暇もなかった。

 ドクターヘリが出動し、昏睡状態の女児をERに運ぶ。呼吸数は40回、橈骨動脈は弱い。超音波検査すると、腹腔内出血が増えていた。輸液は現場から続けていたが、血圧は落ちていく。「輸液に反応しない。出血性ショックだ。開腹して止血する。手術室の用意を!」と私はERに向かって言う。しかし、次のセリフが返ってきた。「手術室の準備まで、30分かかります」。

 手術室はいつも空いているわけではない。その時は、定時手術が入っていた。女児の血圧は測定不能、頭部も腹部もCT検査はまだ。私の決断は早かった。女児の両親をERに呼ぶ。「腹部、頭部、肺外傷で命が危険です。今からここで手術します。必ず救いますから」。私は両親の背中を見送ると、白く強い光で輝いているERベッドへ進んだ。

 「予測救命率は34%、心停止に備えてアドレナリン0.1mg注射」。耳で脈拍が速くなったのを確認し「開腹!」と強く言った。黒い血が吹き出る。左の示指、中指を腹部に入れて、腹壁をハサミで一気に切り上げる。血の海の中に今度は右手を入れた。「血圧30です!」と上ずったER医の声が聞こえる。肝臓と胃の間に背骨があり、背骨の真ん中より少し左に大動脈が足方向に流れる。そこを探して背骨に押しつける。「大動脈クランプ開始、キャッチアップして!」。私は宣言し時計を見た。

著者プロフィール

今 明秀(八戸市立市民病院院長)●こん あきひで氏。1983年自治医科大学卒業。へき地診療を5年、外科を8年、外傷救急を6年修練。青森県ドクターヘリ スタッフブログ「劇的救命」(http://doctorheli.blog97.fc2.com/)を更新中。

連載の紹介

救急いばら道
八戸市立市民病院の院長であり、救命救急センター所長、臨床研修センター所長でもある今明秀氏が、ドクターヘリやドクターカーを擁する同病院救命救急センターでスタッフと日夜奮闘する様子を、克明にお伝えします。

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