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「医系技官」という希少種

2015/02/20
松本晴樹=厚生労働省医政局総務課・地域医療計画課

松本晴樹●厚生労働省医政局総務課/地域医療計画課。2006年千葉大学卒業。宮城県石巻赤十字病院での初期研修終了後、湘南鎌倉総合病院救急総合診療科の後期研修(1年)を経て厚生労働省に入省。母子保健、診療報酬などの担当を経て2014年4月より現職で地域医療構想、特定機能病院等を担当。

 みなさん、こんにちは。私は9年目の医師で、厚生労働省で医系技官と呼ばれる仕事をしています。みなさんは、「医系技官」という言葉を聞いたことがありますか? 医系技官は、医師免許や歯科医師免許を持ちながら厚労省など政府で働く行政官で、保健・医療福祉政策などを担当しています。

 行政なんて何やら堅苦しそう…と思うかもしれません。実は、医療の世界は、政策や行政とは切っても切り離せない世界です。例えば、医師など医療者の免許は厚生労働大臣が交付するものですし、日々処方する医薬品の承認も厚生労働大臣が行います。

 とはいえ、普段、診療や研究をされている医療職の方からは、実際にどんな仕事をしているか、なかなかイメージできないでしょう。この連載では、医療などの政策・行政に関わる日々の中で得た経験や学びについて、若手の医系技官5人がそれぞれの喜怒哀楽を交えてお伝えしていきます。少しでも政策・行政に親しみを感じてもらえたらうれしいです。

私が医系技官になったワケ
 私は、医学部で諸外国の医療制度を学んだ際、経済的には似たような国々でも、医療はその制度によって大きく異なることに驚き、医系技官の道に進みたいと思うようになりました。国の医療を大きく左右する制度を立案する側に入って医療を良くしていきたいと思い、医系技官として厚生労働省に入省しました。また、高々3年ではありますが現場経験もあり、ほとんどが大学や大学院から直接採用される省庁において、現場寄りの政策立案に貢献できるという自負もありました。

 医師免許を持つ医系技官は、全部で300人弱(医師の0.09%)。日本の場合、医師の96%は臨床、1.7%は研究をしているといわれています。医系技官は、研究をしている医師よりもさらに少ない「希少種」と言えるでしょう。

 現在は初期臨床研修が必修であるため、医系技官として入省するのは少なくとも2 年間は臨床現場で働いた医師たちです。ただし、私の同期十数人のうち後期研修まで修了しているのはおよそ4分の1。約半数は初期研修のみを終えて入省しています。なお、医系技官の選抜方法は、いわゆる国家公務員総合職試験ではなく、別試験(書類選考、グループディスカッション、面接など)です。 定員は、受験年次ではなく、卒業年次ごとになっているため、同時に受験している人たちの全てと競争しているわけではありません。そういう意味では、卒業後早いうちに受験した方が有利という考え方もあります。 

 厚労省の担当分野は、病院関連や小児、周産期、救急などの医療政策以外にも、がんや感染症の対策、食品安全など多岐にわたります。もちろん、法律を専門とする事務官や薬学系、看護系の技官など、一緒に仕事をする同僚の背景は様々です。チームで1つの政策を担当し、予算要求や執行、制度改正(通知と呼ばれる文書や法律の改正など)、専門家が集まる審議会の運営などを通して仕事をしていきます。

 時折、「医系技官は臨床現場をよく知らないまま政策を作っているのではないか」という批判を頂くことがあります。我々が臨床を離れて行政の専門性を形成していく以上、真摯に受け止めなくてはなりません。実際、政策立案を行う上で現場の医療従事者、患者、社会保障の専門家といった様々な方々の意見を吸収することは、医療のような専門性の高い領域では特に重要です。

 しかし財政やマンパワーなどの資源、他の制度との整合といった制約を踏まえた関係者の合意が、政策運用には必須です。多忙を極める医療現場からの提言は、目の前の課題を優先し、多方面への配慮がされていない意見であることもままあり、ジレンマに悩むことが多いのも事実。このようなときこそ、私たち医系技官が現場の意見と政策をフィットさせることも重要だと感じます。入省当初の自負は、今も色褪せません。

著者プロフィール

卒後ほぼ10年以内の医系技官がリレー形式で連載。所属部署は、医療政策、食品安全、放射線健康管理(環境省出向中)、健康教育(文部科学省出向中)、県の保健政策(自治体出向中)など。

連載の紹介

若手医師のお役所奮闘記
厚生労働省で行政官として働く医師「医系技官」の若手がリレーで連載。医療現場を働きやすくしたい、医療の政策などに関わることで自分を成長させたい、政策が作られる現場を見てみたい、国際社会に貢献したい——などなど、様々な思いを抱えながら霞ヶ関で働く医師の悲喜こもごもを、若手目線で緩く綴っていきます。

この連載のバックナンバー

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