Cadetto.jpのロゴ画像

どうなる? オバマケア

2017/04/26
野木真将

 最近、米国の医療現場にいて肌で感じているざわつきについて、ここまでの自分の理解を解説したいと思います。

オバマ大統領率いる民主党政権が8年続き、熱い選挙戦の末に今度はトランプ新大統領による共和党政権が今年の1月に始まりました。オバマ大統領の前の8年が共和党のブッシュ大統領、その前は民主党のクリントン大統領で、近年の米国は政権が交互に変わっています。前任の大統領に不満が積もった国民が次は違う政党を支持するという状況は想像つきますね。

オバマケアって何?
 通称「オバマケア」は2010年、オバマ大統領の元で成立した医療保険制度改革法です。その狙いはズバリ、約4800万人いた無保険者たちに何らかの形で医療保険に加入してもらうことを狙ったものでした。米国の医療保険システムは公的保険と民間保険が混在しています。働き盛りの若者や中高年にとっては、毎月の保険料が高いのに受診はしないということになりやすく、無保険を選ぶ人たちが多かったのです。

 オバマケアは、2つの柱で成り立っています。
1)民間の保険会社が提供する医療保険への加入の義務づけ
2)各州に低所得者向けMedicaid適用対象の決定を義務付け

 1)に関しては、「Marketplace」や「Exchange」と呼ばれるウェブサイトに保険料やカバー内容が様々なプランが登場し、一定期間(Enrollment period)の間に加入しなければ、確定申告時に罰金が課されました。罰金の程度は、年収の2%もしくは定額(大人1人につき$325と子供1人につき$162)のどちらか高い方でした。無保険者の中には貧しい人や高齢者だけでなく、働き盛りの若者もいたので、罰金を嫌がってとりあえず何かの医療保険に加入する人が増えました。低所得者には税金を投入して補助金を設けたりもしました。

私はホスピタリスト(病棟総合内科医)なので、その影響を直接は感じませんでした。しかし、地域のプライマリケア医にとっては、「保険がないと診察できない」と断れなくなってしまったので、仕事量が増えたことが想像できます。ハワイ州では増えた保険加入者たちを受け入れるプライマリケア医の不足が浮き彫りになりました。

また、急に乱立してきた医療保険プランの中には一見すると月額保険料の支払い(premium)が安く見えるものの、よく読むと利用した医療費がある一定額(Deductible)に達するまでは自己負担が大きい粗悪なプラン(High deductible health plan)もありました。保険がカバーする薬剤が一部に限られるもの、妊娠出産や不妊治療には適用されないものもあります。

 オバマケアは「無保険者をなくす」という目的の達成には至らなかったものの、「無保険者を減らす」ことには成功しました。

オバマケアの功績は?
 2014年から実行された結果として、2008年に全国民の15.4%だった無保険者は、2015年に9.1%まで減少しました。実数にして2100万人が医療保険に加入した計算です。一定の成果は上げましたが、それでもまだ2700万人の無保険者が残るという結果になりました。

 数値には現れない功績もあります。まず詳しい話をしますと、オバマケアは以下の3つの基本法で構成されています。

(1)Patient Protection (PP) and Affordable Care Act (ACA)
(2-A)Health Care and Education Reconciliation Act
(2-B)Student Aid and Fiscal Responsibility Act

 (1)のACAは無保険者の保険加入を義務付けるもので、上述したように罰金という外的動機と、購入しやすい医療保険プランをウェブでわかりやすく提供という内的動機をそろえたものです。また、過去の病歴によって医療保険加入を制限しないという法律も含まれていて、うつ病や統合失調症などの精神疾患既往者にも保険の門戸が広がりました。Medicare plan A/B(外来受診費用のカバー/入院費用のカバー)に加入はしていても、plan D(薬代のカバー)は高くて加入できないでいた高齢者(Donut holeと呼ばれる現象)も補助金の恩恵を受けられるようになりました。

 ACAを予算面で支えるのが(2-A)の法律です。財源の確保として、年収25万ドル以上稼ぐ世帯にはMedicare taxが増えました。(2-B)の法律は、学生ローンビジネスから民間金融機関を締め出したことで学生の利子負担を減らすのに役立ちました。

トランプ大統領はなぜオバマケアを撤廃しようとしたのか?
 上述の(2-A)Health Care and Education reconciliation Actを、トランプ大統領は撤廃しようとしました。その理由はいくつかあるのですが、国民に対しては「医療保険加入を強制するのは人権侵害。国民に不当な負担をさせている。その割には国のトータルな医療費抑制に貢献していない悪法である」として、支持を訴えてきました。

 しかし、この法律を撤廃すると、無保険に戻る人が増えることは明らかです。なので、repeal(撤廃)、repair(修復)、replace(代替)などと、段階的に変更を加えることを表明していました。

連載の紹介

あめいろぐ便り
米国で学び、働く日本人医療従事者が広く情報発信するブログサイト「あめいろぐ」。その執筆メンバーがCadetto.jp読者向けにオリジナル記事を書き下ろします。日本からは見えにくい米国医療の姿を内側から伝えます。

この連載のバックナンバー

この記事を読んでいる人におすすめ