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米国の外科レジデンシーを考えている人へのアドバイス
いつ渡米すべきか?

2013/03/30
橋本陽平(米国ピッツバーグでカテゴリカル外科レジデント)

 私は医学部5年生の時にUniversity of California, San Diego School of Medicineの外科で他の米国人医学生と同じ立場でclinical clerkshipをする機会に恵まれ、その体験を通して、米国で外科レジデンシーを行い米国で外科医になりたいと思うようになりました。手稲渓仁会病院(北海道札幌市)で卒後6年間一貫の外科研修を受けた後、1年間の在沖縄米国海軍病院での勤務中にマッチし、2012年7月よりPennsylvania州のPittsburghにて外科研修医として勤務しています。

 米国で外科レジデンシーをしたいけど、いつ渡米するのがいいのか迷っている方がいると思います。渡米のタイミングとしては大きく以下の3通りがあります。
1.医学部在学中にマッチングに参加し、卒業後すぐに渡米(日本での初期研修なし)
2.研修医として働きながらマッチングに参加し、マッチ次第渡米
3.日本でフォーマルな外科トレーニングを受け、外科専門医取得後にマッチングに参加し渡米

 いずれの方法で渡米しても成功されている方がいるのでどれが最善ということはありません。私の場合は、日本でトレーニングを受けて外科専門医資格を取ってから渡米すると医学生の頃から決めていたため、上記の 1. 及び 2. は選択肢にありませんでした。ここでは、私の経験から「3. 日本でフォーマルな外科トレーニングを受け、外科専門医取得後にマッチングに参加し渡米」を選択した場合のメリット・デメリットを述べたいと思います(内科など他の科では状況が違うと思われます)。

メリット1:渡米前に手術手技を習得できる

 一番のメリットはこれに尽きると思います。手術手技の習得・向上に関しては、事前の勉強はもちろんのこと、実際に執刀して優れた指導医から手術中直接指導を受けるという過程が欠かせません。私の場合は日本での6年間一貫の外科レジデンシー(初めの2年間はスーパーローテート)で執刀は約550例、助手は約850例経験することができました。尊敬する岸田明博先生を初め多くの外科指導医からの熱心で厳しくも温かいhands-onの指導で、手術書を読むのでは到底得ることのできない大切な手術手技を多く学びました。

 また、丁寧で美しい手術を心がけること、最小限の動作で効率的な手術をすること、解剖を良く理解した手術(膜の手術)をすること、外科医として特に手術室では何が起こっても常に平静の心を保つこと、大事な自分の家族であるかのように患者一人一人を大切に執刀することなど、外科医としての様々な心構えを学びました。こういった姿勢は日本人が特に重きを置き、そして得意とするところのように感じます。

 日本以外の多くの病院で手術に参加または見学しましたが、目から鱗が落ちるという表現がふさわしい感動する手術もあれば、雑で乱暴な手術と感じる手術も少なからずあったように思います。ある海外の病院でのエピソードですが、腹腔鏡下胆嚢摘出術で胆嚢の剥離の際に鋭的剥離をせず、無理矢理引っ張って胆嚢を胆嚢床から剥がすという、ちぎっては投げの所謂「チギレクトミー」をしている外科医を見たときには驚きました(もちろん稀な例です)。

 日本人の手術はmeticulous(細部に気を配り)すぎる、そんなに丁寧にしなくても術後合併症の発生率は変わらないのではないか、という外国人の意見もありますが、「結果的に合併症が起きない程度の雑加減は多くの手術をこなす必要がある以上仕方がない」という考えではアートとしての外科手術に反するものがあると思います。日本でトレーニングを受けていなければこういったことには気づかなかったかもしれません。

 米国での外科レジデンシーに話を戻すと、他のレジデントより手術経験が豊富なことは大きなメリットです。初めて一緒に手術をする指導医には手術前に簡単に経歴を伝えれば信頼してくれてインターンレベル以上の手術をさせてもらえることもあります。手術中に「将来パートナーとして働かないか?」という冗談でしょうがうれしい褒め言葉をもらったこともありました。

メリット2:渡米前に外科知識を習得できる

 これは普段の診療とABSITE(American Board of Surgery In-Training Examination)の二つの面で非常に有利です。日本で一通り知識を身につけたとしても、渡米してからも継続した学習はもちろん必要です。しかし、あらかじめ知識があることによって普段の診療でも自信を持って意見を述べたり計画を立てることができます。またABSITEという1月下旬に毎年行われる全米の外科研修医(全学年)を対象とした共通試験がありますが、この試験の際にも今までに蓄積した知識が生きます。ちょうどUSMLEのスコアがresidencyのマッチに大きなウェイトを占めるように、ABSITEのスコアはfellowshipの応募の際に非常に重要で、人気のあるプログラムではABSITEのスコアで応募者はまずふるいにかけられます。ABSITEのスコアも一年目から全て見られますから一年目から気は抜けません。外国人がfellowshipのポジションを得て生き残っていくためには少なくともスコアは良い必要があります。

連載の紹介

あめいろぐ便り
米国で学び、働く日本人医療従事者が広く情報発信するブログサイト「あめいろぐ」。その執筆メンバーがCadetto.jp読者向けにオリジナル記事を書き下ろします。日本からは見えにくい米国医療の姿を内側から伝えます。

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