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米国医療のリスク管理、キーワードは1%、600万円、10年

2008/04/19

 「医療訴訟を起こされたらどうしますか?」
 こう聞かれたら、「とりあえず弁護士に相談」でよいだろうか?

 「訴えられないような対策や勉強はしていますか?」
 では、こう聞かれたら、自分の答えは「No」である。逆に、「どんな対策や勉強をしたらいいのでしょうか?」と質問するだろう

 最近、「医師が訴えられた」という記事をよく目にするようになった。訴訟までは行かなくても、医師をやっていれば、誰もがヒヤリとするような経験を持っていると思う。

 17日、大学院(HSPH)でリスクマネジメントについての勉強会をお願いするために、医療リスクマネジメント組織のCRICO/RMFのルーク・佐藤氏にお会いした。佐藤氏は日本人の両親を持ち、生まれはボルチモア。神経内科医で、10年前までBrigham and Women's Hospitalに勤務していたそうだ。ちなみに翌日、HSPHで何人かの学生に「CRICOって知っているか?」と聞いたら、みな当然のように知っていた。

 佐藤氏には1時間ほど、CRICO/RMFができた経緯、アメリカの医療訴訟やリスクマネジメントの状況をざっと聞かせてもらった。その話の中でキーとなる数字は、「1%」「600万円」「10年」だった。

1%:アメリカで医師が訴えられる可能性は1%ということである。もっとも、あるアンケートによると、多くの医師は「2、3年以内に訴えられるのではないかと心配している」そうだ。

 訴えられた医師の15%はレジデントで、残りがアテンディングや医療スタッフ。そして、最近は外来の診療に対する訴訟が増加しているそうである。アメリカでは入院よりも外来に重点を置くようになっており、より多くの診療が外来にシフトするとともに、病院も外来を中心としたクリニックを開設し始めている。「訴訟にもこの状況が反映されている」と佐藤氏は分析していた。

600万円:CRICO/RMFは、医師および医療スタッフが訴訟を起こされた場合に、医療者側を守るための保険会社のような組織で、加入する医師の保険料は専門科によって異なる。

 アメリカでは、病院を訴えても最高200万円程度しか支払われない。そのため、医療過誤が起こった場合、医師個人が訴えられる可能性が高くなるそうである。保険料が一番高い診療科は産婦人科と脳外科で、年間の保険料は何と600万円! 内科医でも300万~400万円。その分、給料は多くもらっているのだろうが、それにしても高い…。

10年:佐藤氏によると、日本の医療のリスクマネジメントは、アメリカと比べると10年は遅れているそうである。医療についての日本の報道を見ていると、「まさにアメリカで10年前に起こったことが今の日本で起きている」と佐藤氏は話していた。

著者プロフィール

内山 伸(ハーバード公衆衛生大学院生)●うちやま のぼる氏。1999年佐賀医大(現佐賀大学)卒後、1999〜2001年聖路加国際病院内科レジデント、2001年同チーフレジデント、2002年同病院呼吸器内科。2007年7月留学。

連載の紹介

内山 伸の「ハーバード留学日記」
2007年7月から1年間、米国ハーバード公衆衛生大学院(Harvard School of Public Health)に留学した内山氏。日々の授業の内容や米国の医療事情、ボストンでの生活を紹介します。

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