日経メディカルのロゴ画像

学会参加の意義とは(その1)
学会に行かなければ分からないこと

2013/02/13
津久井宏行

 1月末にアメリカ・ロサンゼルスで開催された米国胸部外科学会(The Society of Thoracic Surgeons:STS)学術総会に参加してきました。胸部外科医にとって最も大きな学会の一つとして位置づけられており、世界中から参加者が集まります。寒い日本からコートを羽織って出かけたのですが、当地では、ついぞコートの出番がないほど、温暖で過ごしやすい3日間でした。そこでの様子を少し紹介したいと思います。

 ここ数年、海外の学会に参加する意義が私の中で変わってきています。若い頃は、半分、観光気分。忙しい日常から脱出して日本を離れた解放感からか、学会会場を抜け出しては、観光をしたり、ご当地の名物に舌鼓を打ったりでした。

 それが最近は、観光に出かけることはあまりなくなりました。観光に興味がなくなったわけではないのですが、学会での情報収集の方が面白くなってきたことと、情報収集しないと世界の潮流から取り残されてしまうのではないかという焦りのようなものを感じるからです。

 私が海外の学会に参加する理由はいくつかあります。一つ目は自分で発表することで、自分の取り組みが外国からはどのような評価をされるかを確認したいという欲求です。今回のSTSにも抄録を提出しましたが、残念ながら採択されませんでした。自分が今やっていることの価値が学会で発表するレベルにないと判断されたことになるので、まだまだの研鑽を必要とするようです。

 演題に採択された場合、自分の発表が世界ではどのように捉えられていたのか?がさらに明確になります。日本ではあまり経験することのない、発表後のdiscussionでの厳しい質問にさらされることにより、「自分の立ち位置」のようなものがはっきりしてくるのです。昨年、発表の機会を得たWTSA (Western Thoracic Surgical Association)では、指定討論者から厳しい指摘を受け、タジタジになりました。そのおかげで、後の論文作成では思考過程に深みを増せたように思います。

客の入りと反応は、ネット配信では分からない
 二つ目は、「世界はどこに向かっているか」を肌で感じるためです。最近の海外学会は、発表の様子をネット配信することが多くなり、わざわざ会場まで行かなくても発表を視聴できるようになりました。しかしながら、それではなかなか伝わってこないものがあるのです。

 まず、ネット配信で映し出されるのは発表者とスライドのみで、聴衆側の様子をうかがい知ることはできません。発表を聞く際に私が注目する点の一つは、「どれくらいの人が関心を寄せているか」です。会場に入りきれないほど聴衆が集まる発表があれば、人もまばらで「どうしてこの演題が採択されたんだろう?」と思うものもあります。

 発表後の質問がひっきりなしで、すべての質問が終わらないうちに次の発表へ移ることを余儀なくされてしまう場合があります。一方、基調講演など長時間にわたる発表では、面白ければ聴衆は会場に留まりますが、そうでなければ一人また一人と席を離れていってしまいます。また、隣に座っている聴衆から聞こえてくる感想などからも、発表に対する生の評価が感じ取れます。

著者プロフィール

津久井宏行(東京女子医大心臓血管外科准講師)●つくい ひろゆき氏。1995年新潟大卒。2003年渡米。06年ピッツバーグ大学メディカルセンターAdvanced Adult Cardiac Surgery Fellow。2009年より東京女子医大。

連載の紹介

津久井宏行の「アメリカ視点、日本マインド」
米国で6年間心臓外科医として働いた津久井氏。「米国の優れた点を取り入れ、日本の長所をもっと伸ばせば、日本の医療は絶対に良くなる」との信念の下、両国での臨床経験に基づいた現場発の医療改革案を発信します。

この記事を読んでいる人におすすめ