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「蹴飛ばしてやろうか」と思う上司と働きなさい

2012/07/17
津久井宏行

写真1 術中のDr. Pellegrini。鋭い眼光にたじろぐこと、しばしばでした。

 アメリカで直接の手術指導を受けたDr. Ronald V. Pellegrini。私のキャリアの中で、「蹴飛ばしてやろうか」と本気で思った唯一の上司です。この上司と私、2人の外科医で年間450例ほどの症例をこなしていたのですから、2年半の間、毎日毎日、手術室で患者さんを挟んで向かい合い、毎日毎日、指導を受けました。

 当時、すでに70歳を超えていましたが、外科医としての腕には本当に目を見張りました。80歳にならんとする今も現役の術者で、とにかく、手術が美しい。今でも私が目指す手術の目標は、Dr. Pellegriniのような美しい手術です。

 しかし、その指導は本当に厳しかった。アメリカ人というと陽気で明るい印象を持つでしょうが、手術室でのDr.Pellegriniは全く逆。日本で言う「頑固おやじ」でした。特に最初の1年目は来る日も来る日も叱られ続けました。Strategyの立て方、針の持ち方、運針、術後管理…と、ありとあらゆる細部にわたって、指導が入りました。

 当時の私は、約2年の心臓移植・人工心臓のfellowshipが終了し、次のステップとして一般心臓外科を学び始めていました。開心術の経験は100例以上だったので、そこそこ出来るようになっていたつもりでしたが、全くさにあらず。

 術中のマスク越しに輝く眼光は鋭く、睨まれたら、ギリシア神話のメドゥーサよろしく、石になってしまうかのような毎日でした(写真1)。たまに叱られずに手術を終えると、scrub nurseに「Hiro、今日は珍しく、叱られなかったな~」とからかわられるほど。それだけ、叱られるのが日課になっていたわけです。

 毎日毎日、叱られ続けていると、「ここまで言われるなんて、たまったもんじゃない。このおっさん、蹴飛ばしてやろうか!」と頭に血が上ったことは一度や二度ではありません。しかし、振り返れば、知識の足りなさや技術の拙さなど、怒鳴られる原因はちゃんとありました。今の自分の手術を支えてくれているのは、Dr.Pellegriniの厳しい指導のお蔭です。あの時やあの時…、足が出なくてよかったなあと、つくづく思います(笑)。

著者プロフィール

津久井宏行(東京女子医大心臓血管外科准講師)●つくい ひろゆき氏。1995年新潟大卒。2003年渡米。06年ピッツバーグ大学メディカルセンターAdvanced Adult Cardiac Surgery Fellow。2009年より東京女子医大。

連載の紹介

津久井宏行の「アメリカ視点、日本マインド」
米国で6年間心臓外科医として働いた津久井氏。「米国の優れた点を取り入れ、日本の長所をもっと伸ばせば、日本の医療は絶対に良くなる」との信念の下、両国での臨床経験に基づいた現場発の医療改革案を発信します。

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