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心臓手術の出張コンシェルジュ

2011/06/15
津久井宏行

 昨年12月の製造販売承認を受け、4月に埋め込み型補助人工心臓が発売されました。DuraHeart(テルモ社)と、私たちが開発に携わったEVAHEART(サンメディカル技術研究所)の本格的使用が始まっています。5月末現在、国内で既に5人の患者さんに埋め込みが行われました。

 最近、多くの病院の先生方より、心臓移植人工心臓に関するお問い合わせをいただいています。その際に私たちが力を入れているサービスの一つが、その病院に出張してのプレゼンテーション活動です。患者さんとご家族にお会いし、実際に診察して、心臓移植や人工心臓について説明します。最近では月に2~3回、出向くようになりました。

 このサービスを始めた理由には、我々の苦い経験があります。重症心不全の患者さんは既に地元の病院などに 入院中であることが多く、我々の施設など心臓血管外科の外来に通うこともままなりません。待機手術のための搬送時に血行動態が破綻してしまい、到着時には心肺停止。そのまま手術室に運ばれて、緊急手術となった症例もありました。当然のことながら、そういった症例の成績は芳しくありませんでした。

 こういった事態を防ぐためには、こちらから病院に赴いて、重症心不全の患者さんの状況を把握することが必要なのではないか? 「どのタイミングで搬送し、何に注意すべきか」を紹介元の先生と事前にしっかり話し合えば、手術成績の向上につながるのではないか? ということで、出張プレゼンが始まったのです。

 実際にお話ししてみると、患者さんによっては、重症度があまりに高く、搬送に耐えられなかったり手術適応から外れているということで、手術をお断りせざるを得ないこともありました。そういうケースでも、搬送の苦しみや負担をご本人やご家族に与えることを防げたという点で、意味があったのではないかと考えています。

 訪問した際に具体的に相談させてもらうのは、搬送中の血行動態を安定させるための薬剤の調整、大動脈内バルーンパンピングを挿入するか否か、挿管の是非といった項目です。さらには、搬送に使用する救急車のスペック(電源、広さ、揺れ)や、都内の混雑を避けて搬送時間を短くできるような時間帯や道順など、“サービス”は広範にわたります。さながら、ホテルのコンシェルジュのような役割といえるでしょう。

治療を左右する家族のサポート状況を搬送前に把握
 重症心不全の治療は、治療期間が長期にわたることが多く、患者さん本人の体力と精神力はもちろんのこと、ご家族のサポートが十分に得られないと、心臓移植までの長い道のりを完遂することが難しい。つまり、家族のサポートの有無は治療の成否に大きく影響します。病院を訪問してのサービスを続けていて、その点で新たな発見がありました。

著者プロフィール

津久井宏行(東京女子医大心臓血管外科准講師)●つくい ひろゆき氏。1995年新潟大卒。2003年渡米。06年ピッツバーグ大学メディカルセンターAdvanced Adult Cardiac Surgery Fellow。2009年より東京女子医大。

連載の紹介

津久井宏行の「アメリカ視点、日本マインド」
米国で6年間心臓外科医として働いた津久井氏。「米国の優れた点を取り入れ、日本の長所をもっと伸ばせば、日本の医療は絶対に良くなる」との信念の下、両国での臨床経験に基づいた現場発の医療改革案を発信します。

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