今年の4月、私たちの医局には6人の後期研修医が入局しました。外科医不足が叫ばれる中、6人もの新人外科医を迎えられたことは、全国的にも恵まれていると実感。これは前医局長の功績です。今年2月に医局長の責を任された私としては、「来年もこれだけたくさんの研修医の支持を集められるだろうか」と、今から頭を悩ませています。
6人とも、若さにあふれ「よ~し、一丁やったろ!」という気概を持った青年たちで、「最近の若者は…」と大人から批判的に見られる若者たちからは、最も遠い存在のように感じます。これから大変なことがたくさんあると思いますが、それを一つひとつ乗り越えて、一人前の外科医になってほしいと切に願います。
さて先日、ある企業から新入社員への講演依頼をいただきました。講演を前に、聴衆となる方々のバックグランドを伺って、びっくり!いずれも日本を代表する優秀な頭脳の持ち主たちです。「私の話を聞いても、役に立つことがあるのだろうか」と悩んだ末、自分の失敗談を話すことにしました。
当日、会場で彼らを見ると、やはり目の輝きが違う!「やっぱり失敗談を準備してきて良かった」と思いながら、壇上に上がりました。
ここでは、会場でお話したエピソードの一つを紹介します。
アメリカに留学して間もないころのことです。研究していた人工心臓を臨床導入するに当たり、米国食品医薬品局(FDA)から認可を得る必要がありました。認可を得るにはどうすればよいのかを相談するために、ある法律事務所を訪問しました。訪問前には、「この条件をクリアすれば、認可が得られる」という基準があって、それを提示してもらえると想定していたのです。
しかし、実際に話を進めていくと、「FDAを説得するに足るプロトコルを作成して、安全性を証明してください」という“けんもほろろ”なアドバイスしかもらえませんでした。というのも、人工心臓の臨床研究は、前例があまりなく、明確な「合格基準」を持ち合わせていないというのです。同業他社の似たような事例から、「この基準では不合格だろう」ということはある程度推測できても、「こうすれば合格できる」という基準がないからです。「技術の発展と共に、要求される安全性も変化する」というのです。
つまり、自分で「問題」を作って、自分で「解答」することを要求されたわけです。自分の「解答」が「正解」なのかどうかは分からないし、多分、「正解」は1つだけではないはずです。
なんとか臨床試験にこぎつけたものの、予定よりもかなり時間を要しました。私がそれまでに受けてきた日本の教育では、「問題」は用意されているものであり、「正解」も1つに決まっていました。その「正解」を導き出せれば、「合格」と相成るわけです。そういった教育しか受けていなかったため、「正解」が分かっていない「問題」を解かなければならない、と思ったときに受けたインパクトは相当なものでした。
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著者プロフィール
津久井宏行(東京女子医大心臓血管外科准講師)●つくい ひろゆき氏。1995年新潟大卒。2003年渡米。06年ピッツバーグ大学メディカルセンターAdvanced Adult Cardiac Surgery Fellow。2009年より東京女子医大。

連載の紹介
津久井宏行の「アメリカ視点、日本マインド」
米国で6年間心臓外科医として働いた津久井氏。「米国の優れた点を取り入れ、日本の長所をもっと伸ばせば、日本の医療は絶対に良くなる」との信念の下、両国での臨床経験に基づいた現場発の医療改革案を発信します。
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