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都会のねずみと田舎のねずみ

2009/10/07
津久井宏行

 都内と関東近郊(便宜的に「田舎」と呼ばせていただきます)の病院で、外来を担当させていただいている。どちらも循環器専門外来であり、扱う疾患は同じはずであるが、なんとなく違う。私の「心の中の統計」によって、同じ疾患でも「田舎の人の方が健康的で、都会の人は病んでいる」と感じてしまうからだと思う。

 私の「心の中の統計」とは、「統計学的有意差は調べてないけれど、経験的になんとなく感じるもので、他の人にそれを話すと結構な割合で、同意が得られる」という、あいまいな統計なので、その辺を勘案してこの先をお読みいただきたい。

我慢強い田舎の患者さん
 田舎の患者さんを診察していて驚かされるのは、彼らがとても我慢強いことだ。高度な高血圧(収縮期圧180以上)や、リウマチ性弁膜症の診断機会もないまま年を重ね、来院時の胸部レントゲン写真でCTRが60~70%に及ぶ、といった患者さんも少なくない。そして、身体所見からはもっと重症感があってもよいはずなのに、患者さん自身は、それほど愁訴を訴えないことが多い。しかしながら、もう少し掘り下げて話を聞いてみると、階段を上るときに途中で休まないと上り切れなかったりして、結構、高度な心不全ができ上がっている。

 先日診察した患者さんは、本人は「ちょっと、朝から調子が悪くて…」という程度の認識だったが、心電図を見ると心筋梗塞と診断できたので、緊急、心臓カテーテル手術を行ったところ、左前下行枝に99%の狭窄があったのだ。この患者さんは、早期治療により事なきを得たが、「ここまで我慢しなくても…」と思わずにはいられなかった。

 こんな感じで、田舎の患者さんはとにかく我慢強い。特に70歳以上の患者さんでは、その傾向が顕著だ。診療中に話が弾むと、戦中、戦後の話をしてくれる患者さんがいる。中には、「センセ、あのころに比べれば、こんなモン何でもねえ。今の人は我慢が足らん」と本音を話してくれることもある。

 また、田舎の患者さんは、こちらの指示を素直に聞いてくれることが多い。高血圧や高脂血症の治療のため、薬の調整や検査を勧めると、たいていは素直に医師の勧めに従ってくれる。しかし、健康に関する知識レベルは残念ながら高いとはいえず、もう少し知識を持ってくれたら、と思うこともしばしばだ。

自分で病気を作ってしまう都会の患者さん
 翻って都会の外来。健康管理は比較的良好にコントロールされていることが多く、田舎の診療所で見られるような高度高血圧患者に遭遇することはまれだ。健康に関する意識が高いせいだろうか、自宅で血圧計測をしている患者さんも多い。

 しかし、自分で病気を作ってしまう患者さんが多いことにも気付かされる。医学的には問題なくても、「動悸がする」「胸が痛い」といった愁訴が多い。心電図、レントゲン写真、血液検査などの検査をした上で、「このまま、経過観察でも良いと思います」と話しても、患者さんから「心配だから、もっと詳しく検査してほしい」と精密検査を依頼される。診療所では精密検査ができないため、大学病院の私の外来までご足労いただき検査をするのだが、案の定、“空振り”で終わることが多いのだ。

著者プロフィール

津久井宏行(東京女子医大心臓血管外科准講師)●つくい ひろゆき氏。1995年新潟大卒。2003年渡米。06年ピッツバーグ大学メディカルセンターAdvanced Adult Cardiac Surgery Fellow。2009年より東京女子医大。

連載の紹介

津久井宏行の「アメリカ視点、日本マインド」
米国で6年間心臓外科医として働いた津久井氏。「米国の優れた点を取り入れ、日本の長所をもっと伸ばせば、日本の医療は絶対に良くなる」との信念の下、両国での臨床経験に基づいた現場発の医療改革案を発信します。

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