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脳死移植と満員電車の関係

2009/07/01
津久井宏行

 2009年6月18日、臓器移植法改正A案が衆議院で可決された。A案の骨子は、(1)脳死を一律に人の死と見なす、(2)本人が拒否していない限り、家族(遺族)の同意で提供ができる、(3)提供を15歳以上としていた現在の年齢制限が撤廃される――という特徴を持ち、国際的にも標準的な内容となっている。なんとなく、移植医療の新しい時代の風を感じさせる。

成績は抜群なのに、少ない症例数
 1997年の脳死移植法案の成立後、脳死臓器移植が再開された。そして、99年に脳死心臓移植の第1例目が実施されてから今日までに、69例(09年6月22日現在)の心臓移植が国内で行われた。

 脳死移植再開後の心臓移植の成績を見てみると、移植後の生存率は極めて良好で、手術死亡ゼロ、1年生存率と5年生存率はなんと91.9%!――この数字は、日本の医療従事者のきめ細やかで高度な医療サービスのたまものといえよう。

 しかしながら、アメリカでは年間2500例前後の心臓移植が行われているが、日本では移植症例数は極めて限られており、症例数が増えてきたここ数年に限ってみても、年間10例前後である。日本の人口がアメリカの約3分の1であることを差し引いても、症例数が多いとはいえない。

 そのため、海外渡航移植を余儀なくされる患者さんも多数いるのが現状だ。しかし昨年、世界保健機関(WHO)のイスタンブール宣言(自国の移植は、自国のドナーにより賄うというもの)によって、日本人の渡航移植の機会は、今後、激減することが予想される。

 「なぜ、日本では、脳死移植医療が発展しないのか?」――その理由は、「日本は、脳死をヒトの死として受け入れない国民性だから」といわれている。そのほかにも医療制度やこれまでの移植医療の歴史など、色々な理由があるだろう。

 ここでは、アメリカでの移植医療の経験を基に、少しだけ論じてみたい。

「Donation」という概念が欠如している日本人
 日本人には「Donation」(=寄付)という習慣が、アメリカ人と比較してずっと少ないように思う。時折、マスコミで報道される小児の渡航移植では、多額の募金が短期間に集まったと報道される。これだけ見ると、日本人にもdonationという習慣はあるし、いざとなると集中的に行われることが分かる。しかし、このdonation自体がマスコミで報道されるくらいであるから、日常的な行為にはなっていないといえよう。

 アメリカで生活していた時には、donationを身近に感じる機会に出くわすことが多かった。病棟にチョコレートの箱詰が置かれ、その傍らには「○○小学校のために、donationを!」といった張り紙が添えられている光景をよく目にする。Donationしたい人は、1ドルほどを箱に入れると、その引き換えにチョコレートを手にする。また、車の運転中、信号待ちをしていると、長靴をもった消防士が「町のボランティア消防団にdonationを!」と運転席に近寄ってくる。見ていると、多くのドライバーが窓を開けて小銭を長靴の中に放り込んでいる。

 さらには、2008年のアメリカ大統領選では、当時のオバマ候補が、日本の政治家のように企業や団体からの大口寄付に頼るのではなく、多数のアメリカ国民からのdonationを得て、選挙資金を捻出していたことが報道された。このようにアメリカでは、donationという行為が極めて身近な存在なのだ。

著者プロフィール

津久井宏行(東京女子医大心臓血管外科准講師)●つくい ひろゆき氏。1995年新潟大卒。2003年渡米。06年ピッツバーグ大学メディカルセンターAdvanced Adult Cardiac Surgery Fellow。2009年より東京女子医大。

連載の紹介

津久井宏行の「アメリカ視点、日本マインド」
米国で6年間心臓外科医として働いた津久井氏。「米国の優れた点を取り入れ、日本の長所をもっと伸ばせば、日本の医療は絶対に良くなる」との信念の下、両国での臨床経験に基づいた現場発の医療改革案を発信します。

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