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医者じゃなくてもできる仕事に忙殺される研修制度って…

2009/05/20
津久井宏行

UPMC Passavant病院で術後にOn the Job Trainingをしているところ。写真中央でコーヒーカップを手にしているのが私。アメリカでは、研修医を指導→研修医の業務範囲が広がる→上級医の業務が簡略化→研修医を指導する時間が増える、という好循環を生む環境が整っている。

 日本に帰国し、新医師臨床研修制度になってからの研修医と一緒に働く機会を得た。私が臨床研修を経験したのは1995~2000年で、2003年に渡米したため、2004年から始まった新医師臨床研修制度を現場で経験したことはなく、知り合いから話を聞く程度だった。

 耳に入ってきたのは、「学生時代のBed Side Teachingの延長で、臨床能力が習得されていない」「希望しない診療科に配置された研修医はやる気がなく、教育のしがいがない」「医局制度崩壊の引き金になった」など、後ろ向きの評価が多かったので、今回帰国して、実際どうなのか興味津々であった。

 当科(心臓血管外科)をローテートし始めた研修医K君と働くことになったのだが、彼は将来、当科を希望していないにもかかわらず、風評に反して(?)一生懸命に働く。礼儀正しいし、患者さんの受けも良い。放っておくと、忙しさにかまけて、昼食も取らずに働き続けるので、昼食に誘い出すようにしているくらいだ。

コンピューター入力は上級医以上なのに…
 3週間ほどK君と一緒に仕事をしているうちに、K君の仕事内容が本当に研修医の研修として適切だろうか、と疑問を感じることが多くなった。

 上級医と一緒に患者さんを“診る”という大前提は実践されている。しかし、K君の1日の大半は、検査や内服薬オーダーのコンピューター入力、末梢静脈ライン確保、レントゲン撮影・現像、患者搬送など、米国では「医師以外」の職種が代替する仕事に費やされる。

 K君のコンピューター入力の速さや的確さには、目を見張るものがあり、電子カルテに慣れていなかった私など、彼なくしては仕事にならないほど助けてもらった。

 そんなある日、ICUで中心静脈ライン(CVライン)挿入を経験してもらおうと思い、「CVライン、やってみる?」と聞くと、嬉々としている。「ところで、今までにローテートしてきた科で、何回くらいCVラインやったことある?」と尋ねると、「ほとんどないです」との返事。なぜやらせてもらえなかったのか聞くと、「『リスクが高いから』といって上の先生がやってしまうことが多かったです」とのこと。勤勉なK君だから、勤務態度に問題があってCVラインを挿入するチャンスを上級医に奪われたとは考えにくい。

 CVライン挿入は、気管挿管と並んで、救命救急医療では必須の手技。私が研修医のころ、「CVライン挿入と気管挿管ができれば患者さんを救えるから、なんとしても習得するように」と上級医から言われたことを思い出す。皮肉にも、救命救急の初期対応ができる医師の養成を目指して創設された新臨床研修制度であるにもかかわらず、研修9カ月目にして、CVラインを自信を持って挿入できるほどのトレーニング機会はなかったようだ。

著者プロフィール

津久井宏行(東京女子医大心臓血管外科准講師)●つくい ひろゆき氏。1995年新潟大卒。2003年渡米。06年ピッツバーグ大学メディカルセンターAdvanced Adult Cardiac Surgery Fellow。2009年より東京女子医大。

連載の紹介

津久井宏行の「アメリカ視点、日本マインド」
米国で6年間心臓外科医として働いた津久井氏。「米国の優れた点を取り入れ、日本の長所をもっと伸ばせば、日本の医療は絶対に良くなる」との信念の下、両国での臨床経験に基づいた現場発の医療改革案を発信します。

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