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日本の医療秘書はアメリカを越える!

2009/04/20

 6年間のアメリカ留学を終えて帰国し、1月より、日本の臨床現場に戻った。毎日、新しい発見の連続で驚くことばかり!医療が大きく変動した最近の6年という「時間的変化」に加え、アメリカから日本へという「環境的変化」の2つの変化の中で、まさしく今の私は浦島太郎状態。日々、戸惑う毎日だ。

 しかし、浦島太郎だからこそ、日本の医療従事者には、見えないものが見えているのではないか?そして、それをつづったら、昨今、問題となっている「医療崩壊」の解決の糸口になるのではないかと思い、筆をとろうかと思う。

地方都市の外来で見つけたもの
 とある地方都市の私立病院で、循環器外来を担当するために、週1回、伺うことになった。冬空の下、新幹線を降りたつと、そこには典型的地方都市の風景。「きっと、医療崩壊で困っているのは、こんな地方都市だろうな~」などと考えながら、病院に伺うと、そこには画期的医療が展開されていた。

 私が今までに経験してきた外来業務は、いわゆる「ひとり外来」。医師の補助役が誰もおらず、医師自らが、患者さんを招き入れ、診察、検査をした後、病状説明をし、必要に応じて、処方せんや他科受診の依頼状を書き、次回の検査や予約を入れるという作業の連続であった。この業務自体は、難しくはないけれど、煩雑極まりなく、その上、決められた時間の中で、たくさんの患者さんを診察しなければならないため、手際の良さが求められる。どうしても「やっつけ仕事」にならざるを得ず、典型的な「3時間待ちの3分診療」だったように記憶している。

 手術室で粛々と手を動かすことが好きな私にとって、「やっつけ仕事」をしながら、患者さんとしゃべりつづけなければならない外来業務は、苦痛以外の何ものでもないというのが、私の印象だった。しかし、泣き言も言っていられないので、外来診察室に入ると、そこには、看護師さんと医療秘書さんが私を待っていた。

 2008年4月から導入された「医療秘書クラーク)制度」。私にとっては、初めての体験だ。

 早速、診察を開始すると、医療秘書さんは、私が診察している傍らで、私と患者さんの会話を元に、カルテ記載、検査オーダーをしてくれる。レントゲンやCT、MRIなどの画像は、必要に応じて、次々と目の前のモニターに浮かび上がり、まるで映画に出てくる未来の病院のようだ。処方せんや検査の同意書は、内容確認後、サインをするだけで済むようにセットアップされている。

 一方、看護師さんは、患者さんが診察室に入るまでに、血圧、体重測定をしてくれている。その上、過去1年分のデータが理路整然と記載されており、わざわざ、カルテをひっくり返して確認する手間はゼロ。医療秘書さんや看護師さんは、かゆいところに手が届くコンシェルジュのような存在だ。「なんて効率的な外来業務なんだ!」と感動しながら、業務は開始された。

「診療に集中できる」ことの意義
 「ひとり外来」をやっていたときは、患者さんの診察が終わり、次の患者さんを診察室に招き入れるときに、前の患者さんのカルテ書きをしていることが多かったが、ここではその必要がない。そのため、ある足腰の不自由な患者さんが入ってきた時に、いすに腰掛けるお手伝いをしたところ
「ここの先生は、随分、親切だね」
と感謝されることしきり。いや~、医療秘書さんと看護師さんが、みんなやってくれ、手持ち無沙汰だからやっただけで、こんなに感謝されるとは…。

 そうなんです。医療秘書さんと看護師さんに、ココまで周りを固められてしまうと、私は、患者さんの「診察」と「コミュニケーション」に集中せざるを得ないのです。すると、今まで外来中、書類やコンピュータの画面ばかり見ていて、見えていなかったことが色々見えてくる。例えば、最近、血圧が上昇傾向の患者さんに、「少し、お薬を増やしましょうか?」と話すと、ある患者さんは「自分でも気になっていたので、そうしてもらえると助かる」と言い、安堵した表情を浮かべる。

 そうかと思うと、別の患者さんは「そんなに悪いんですか?」と心配そうな面持ち。また、ある患者さんは、高血圧など、どこ吹く風。処方を増量しても、しっかり飲んでくれるんだろうか?と心配になるような反応。「少し、お薬を増やしましょうか?」の一言に対する反応も十人十色であることを実感した。当然、患者さんの反応を見ながら、ある患者さんには、優しく、また、ある患者さんには、やや厳し目に指導をすることになる。恥ずかしながら、今まで私は、こんな違いに気づくことができないくらいお粗末な外来業務をしていたことになる。

著者プロフィール

津久井宏行(東京女子医大心臓血管外科准講師)●つくい ひろゆき氏。1995年新潟大卒。2003年渡米。06年ピッツバーグ大学メディカルセンターAdvanced Adult Cardiac Surgery Fellow。2009年より東京女子医大。

連載の紹介

津久井宏行の「アメリカ視点、日本マインド」
米国で6年間心臓外科医として働いた津久井氏。「米国の優れた点を取り入れ、日本の長所をもっと伸ばせば、日本の医療は絶対に良くなる」との信念の下、両国での臨床経験に基づいた現場発の医療改革案を発信します。

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