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医師不足対策で臨床研修制度見直しは本末転倒

2009/03/25

 今回は、今話題になっている新臨床研修制度の見直し案について話しましょう。2月末に大筋が固まり、3月からパブリックコメントの募集も始まっています。既にいろいろなところで議論されていますが、詳細はこれから詰めていくところだと思います。

 今回の見直しのポイントは、臨床研修を正味1年くらいにして、2年目はそれぞれ自分の将来進みたい科などを念頭に置いて、やりたい分野を選択できるようにするという点です。研修の自由度を高めたということでしょう。

 ただ、2年目の診療科選択の際には、例えば将来外科医になりたい人が2年目をすべて外科選択にするのではなく、別の診療科ももう少し回った方がよいのではないか、といった意見も出ています。

 私なりにこの新臨床研修制度の議論を振り返ると、当初から目的として「プライマリケアの基本的能力を身につける」とされていましたが、そもそも「プライマリケア」という名称を使ったところから混乱を招いたと思います。「プライマリケア」という言葉からは、かなり完成された医師の姿をイメージされる方が多いでしょう。いろんなバラエティの疾患に適切に対処してくれる、そんなニーズを満たしてくれる医師を2年間の研修で作るのは実際には無理ですね。

 臨床研修の2年間で達成すべき最大の目的は、「初期対応ができる医師を育てる」というところだと思います。例えば、救急の初期対応、慢性疾患の急性増悪といった場合の対応は、医師免許を持つ以上できるようにならないといけないでしょう。初期対応ができるということとプライマリケアがごっちゃになっていたため、到達目標のイメージを共有できていなかった面もあるかと思います。

5年間の蓄積についての評価はなし
 それはさておき、私が今回の改正で一番問題に思うのは、今までの5年間の成果について具体的な評価もなしに見直し、変更しようとしているところです。医師不足など、周囲の状況が状況だったために、あえて批判はしませんが、一般的にこういった制度を変更するときには、前の制度を具体的に評価して、その反省があった上で次の改善案を考えるものです。今回の場合、研修医への満足度調査など簡単な調査は行っていたものの、教育制度としての評価が定まらないうちに、医師不足の状況に振り回されたのではないでしょうか。

 新臨床研修制度が、医師不足が表面化するきっかけになったということについては私も否定はしませんが、だからといってこの制度を動かすときに、医師不足対策の方を主眼に考えるというのは、やはり本末転倒です。

 いい医師を世に送り出すということが最大の目的だったので、それについてどう評価ができたのか、そこからどう改善したらいいのか、ということがきちんと議論されて、その上で、今の医師不足の状況に対してこの制度がどう貢献していけるか、と考える方向に持っていけばよかった気がしますね。

 過ぎたことなのでそれ以上は批判をしませんが、これからマイナーチェンジする時期ですので、今から後付けでもいいので、過去の評価をきちんとした上で、具体的な改革を出してほしいものです。

 臨床研修を受けた研修医へのアンケート調査では、その満足度は高かったようです。ただ、具体的に、満足度がどんなところからきているのか、カリキュラムか待遇面か、教育か。そういう結果になった要因をはっきり示さなくてはいけない。どんなカリキュラム内容が人気だったのか、といった評価も重要なことです。

著者プロフィール

土屋了介(国立がんセンター中央病院院長)●つちや りょうすけ氏。1970年慶応義塾大卒。慶応病院外科、国立がんセンター病院外科を経て、2006年より現職。

連載の紹介

土屋了介の「良医をつくる」
「良医を育てる新しい仕組みをみんなで作り上げよう」。医学教育、専門医制度の論客として知られる土屋氏が、舛添厚労大臣直轄の会議と同時進行で議論のタネを提供。医師、医学生、医療関係者から広く意見を募ります。

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