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米国的な母子関係のすさまじき葛藤
多剤投与の精神科医に薬を投げつける主人公『8月の家族たち』(2013年)

2015/08/17
冨田和巳

 これまで2回にわたり、母性社会に住む日本人が共感できる母子の温かい情緒的関係を描いた新旧の英国映画を紹介した。今回は、同じ母子関係を父性社会・米国が描いた映画『8月の家族たち』(2013年)を紹介する。

米国の母子関係が見える悲喜劇
 二大有名女優の競演でも話題になった本作は、ブラックコメディと謳っているが「悲喜劇」と言った方が理解しやすい。観客には「喜」劇的なところがあっても、場面では深刻な家族の「悲」劇が繰り広げられるからである。戯曲の映画化で、台詞がしっかり練られている上に、映画なので室外の夏の乾ききった米国の地方都市の雰囲気もたくみに数カット挿入し、舞台になる中部・米国の雰囲気を、ある程度伝えてくれる。

 前回述べたように、人間個々が基本に持つ心情は世界共通でも、集団を作った時にはその精神風土が大きく作用する。家族という集団は個々が作る最小社会だと考えると、ここで描かれる家族はまさに米国地方都市の社会が作ったものである。

 前回前々回紹介した英国映画は、精神風土が異なっても日本と共通の情緒的心情を扱ったが、本作では米国的社会が前面に出て、日本人にはあまり共感できない母子関係が描かれる。しかし、映画としては面白く楽しめ、このような家族のあり方が、米国で青少年のうつ病や自殺を多くし、日本に比べて虐待児が桁違いに多い社会にさせるのだと納得させる。まさに父性社会の、どこか「冷たい、寒々」した雰囲気である。

 口腔癌を患い、治療による副作用を鎮痛薬や抗精神病薬の多量服薬で紛らわしている毒舌の老女をメリル・ストリープ(65歳)が演じる。現実の年齢にほぼ同じ役を演じ、嫌味をこれでもかというほど出している。感じの悪い母親は、いわば後述する母性の陰性部分を象徴する。これに負けない攻撃的な長女をジュリア・ロバーツ(47歳)が演じる。こちらも実年齢の役で、丁々発止とやり合う母娘関係はまさに父性社会・米国である。

 映画は、ストリープの夫が彼女に無断でインディアの少女を家政婦として雇ったことにストリープが文句を付ける朝から始まる。1日の始まりである朝にこの出来事では、暗く陰気で好感が持てない開巻になる。否、むしろ気分の悪い始まりで、結果的には別の大きな問題があったと後に分かるものの、少なくともこれが引き金になり夫は家出し失踪する。このような夫婦の雰囲気では当然の結果だろうと思うので、混乱して不安に駆られたストリープが自分の妹夫婦や3人の娘を呼び寄せても、観客としては彼女に同情できない。

 やがて、夫は自殺していたことが分かる。葬儀後の会食の場面は、いかにも舞台劇といった場面で最大の見せ場。ロバーツの妹2人と、それぞれの配偶者やその子どもが繰り広げる米国的家庭問題は類型的なものもあるが、集まった全員の丁々発止のやり取りは興味ある展開で、意外な事実が次々に明らかにされていく。

著者プロフィール

冨田和巳氏(こども心身医療研究所所長/大阪総合保育大学児童保育学部教授)●とみたかずみ氏。1967年和歌山県立医大卒。小学生の頃から映画を観つづけ、映画鑑賞が最大の趣味。『小児心身医学の臨床』(診断と治療社)、『小児心療内科読本』(医学書院)などでも映画を扱ったコラムを執筆した。

連載の紹介

冨田和巳の「映画で考える医療と社会」
今や、DVDや映画専用チャンネルなど、映画は自宅で簡単に鑑賞できる時代です。これまで映画館に行く時間がとれなかった映画好きの医師に向けて、医療・医師を中心とした作品を紹介します。映画評論家風のコメントではなく、臨床医の立場から、映画を通して見た医療と社会について意見/異見を綴ります。

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