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緊密な弦楽四重奏団のアンサンブルの乱れが人生の乱れを巻き起こす
パーキンソン病から広がる波紋『25年目の弦楽四重奏』(2012年)

2015/03/12
冨田和巳

 クラシック音楽に興味のない方は、題名から敬遠されるだろうが、『25年目の弦楽四重奏』(2012年)は人生模様を描いた舞台劇の味をもつ秀作である。音楽好きであればもちろん必見の作。音楽好きでさえ敬遠しがちな弦楽四重奏曲を身近に感じさせる監督の手腕と俳優の演技、弦楽四重奏の持つ音楽的面白さをよく理解させる演出に脱帽!脚本も担当した監督ヤーロン・ジルバーマンは劇映画が初めてというが、注目すべき存在である。

 それぞれの俳優に音楽家が2人ずつ付いて徹底的に指導したというこだわりの演奏場面は感動もの。主役級の有名俳は出ていないが、それぞれが力演でこれぞ「れた人」。存在感の乏しい昨今の「顔だけのジャリタレ」とは違う。主題になるのは、ベートーヴェンの意欲作である「弦楽四重奏第14番」。極めて地味な、通常では敬遠したくなる曲を使うことで、さらに映画の内容を高めている。

世代交代を巡って巻き起こる演奏と人間関係の混乱
 開巻のタイトルバックは弦楽四重奏の演奏会が始まったシーン。終盤で、実はこれが最後の場面だったと分かる。ただしこの冒頭シーンはタイトルの間だけの短時間だけの描写にとどまり、すぐに過去から継時的にそこに行き着く話が始まる。しかし、映画の最後をちょっと見せる今風の無意味な描写形式に、このような映画まで囚われているのは残念。

 物語は、人生で必ず繰り返される「年齢による世代交代」が前提になる。ある弦楽四重奏団を主宰していた最年長のチェロ奏者にパーキンソン病の兆候が現れ、彼が引退を決意する。この四重奏団は昔、老年になった奏者3人が辞め、解散になりそうになった時があった。しかし残った中年のチェロ奏者が自分の教え子などで補充し、その後「息の合った」緻密な演奏を続けて、一流の弦楽四重奏団として活動してきたのである。楽団の再編成が望まれる時、これまで緊密な絆に結ばれていたと思われた4人の間にあった意外な脆さが表面化し、それぞれの微妙な音楽上の変化と私生活での混乱が描かれていく。弦楽四重奏団という極めて密着した4人の中で起こる混乱に、映画的面白さがある。

 映画は人間模様を主に描く。まず、第二バイオリン奏者が常に第一バイオリン奏者の解釈や奏法で演奏されてきたことへの不満を表明し、今後は第一と第二を交代してやろうと宣言する。ビオラ奏者が彼の妻で、かつては第一バイオリン奏者の恋人であったことも、微妙に関係している。第一バイオリン奏者は音楽一筋で過ごしてきたので独身のままだが、娘のような年齢の生徒に恋をする。この娘が実は第二バイオリンとビオラ奏者の間の一人娘という設定で、波紋がいっそう大きくなる。ただ、娘が音楽一筋の両親を持った寂しさから親ほど年齢の違う男に恋心をもつのは不自然ではないが、娘の強引さが唐突で、描き方が少々荒っぽくなる。この映画唯一の欠点である。

著者プロフィール

冨田和巳氏(こども心身医療研究所所長/大阪総合保育大学児童保育学部教授)●とみたかずみ氏。1967年和歌山県立医大卒。小学生の頃から映画を観つづけ、映画鑑賞が最大の趣味。『小児心身医学の臨床』(診断と治療社)、『小児心療内科読本』(医学書院)などでも映画を扱ったコラムを執筆した。

連載の紹介

冨田和巳の「映画で考える医療と社会」
今や、DVDや映画専用チャンネルなど、映画は自宅で簡単に鑑賞できる時代です。これまで映画館に行く時間がとれなかった映画好きの医師に向けて、医療・医師を中心とした作品を紹介します。映画評論家風のコメントではなく、臨床医の立場から、映画を通して見た医療と社会について意見/異見を綴ります。

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