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顔を整形した主人公が復讐を試みるボギーの珍作
怪しげな外科医が登場する犯罪映画の古典『潜行者』(1947年)

2015/01/15
冨田和巳

 昔見た映画で鮮明に焼き付いていたと思っていた画面が、見直した時になかったり、思い描いていたものと違っていたりする経験は誰にでもある。また、昔面白いと思った映画を改めて見るとつまらないこともあり、その逆もしかり。最大の原因は、年齢を経た後の理解度と人生観の違いになる。4回にわたって新しい映画を扱ったので、今回と次回は共に「顔の整形」に関わる半世紀前の珍作と傑作を紹介したい。

子ども心に印象深いフィルム・ノワールとの出会い
 私が焼け跡の残る戦後の大阪市内に疎開地から引っ越してきたのは、敗戦2年後の昭和22年(1947年)の夏で、翌年小学校に入った。当時は映画が唯一の娯楽で、両親が洋画好きだったので、字幕の漢字も十分読めないうちから洋画を見る機会が多かった。

 その中に米国映画の『潜行者』(1947年)という、今ではよほどの「Film noir(虚無的、悲観的、退廃的な犯罪映画)」好きでも知らない作品があった。これを小学3年生で見て強烈な印象を受け、見た劇場を今も覚えている。その後半世紀以上経っても、あら筋はもちろん、寒々とした都会の空き地を主人公が孤独な姿で歩いていく後姿の手前にあるドラム缶の水溜まりに、木切れが浮いている描写が妙に印象に残っていた。多分、その場面から劇場に入った(当時は途中からでも見るのが当たり前であった)からだろうと思うが…。

 本作はその後放映もされず、DVDが一般化してもなかなか発売されないので、よけいに「もう一度観たい」と思っていた。数年前、古典としてやっと発売された。私に強烈な印象を与えた場面は、カットされていたのか思い違いか見ることができなかったが、今、改めて見ても珍品中の珍品なので、個人的感傷を非常に含んだ紹介になる。

 話は妻殺しの濡れ衣を着せられて服役したハンフリー・ボガード演じる主人公が脱獄し、整形手術で顔を変えて真犯人を探し復讐をしていく。その過程で、さらに2人分の殺人事件の濡れ衣まで着せられていくという推理小説の映画化で、小説としてはよくできていたのであろう。

 しかも、当時絶大なる人気があり、ボギーという愛称まで付いた絶好調のハンフリー・ボガードとローレン・バコールの新婚夫婦が共演。この頃、ボガードは名作と評判の高い『マルタの鷹』(1941年)、『カサブランカ」(1942年)への出演が続いた。その後『脱出』(1944年)と『三つ数えろ』(1946年)の2作で夫婦共演し、爆発的人気を得ていた。この映画は原作を読んだボガードが映画化を希望し、映画会社も乗り気で撮ることになったらしい。

著者プロフィール

冨田和巳氏(こども心身医療研究所所長/大阪総合保育大学児童保育学部教授)●とみたかずみ氏。1967年和歌山県立医大卒。小学生の頃から映画を観つづけ、映画鑑賞が最大の趣味。『小児心身医学の臨床』(診断と治療社)、『小児心療内科読本』(医学書院)などでも映画を扱ったコラムを執筆した。

連載の紹介

冨田和巳の「映画で考える医療と社会」
今や、DVDや映画専用チャンネルなど、映画は自宅で簡単に鑑賞できる時代です。これまで映画館に行く時間がとれなかった映画好きの医師に向けて、医療・医師を中心とした作品を紹介します。映画評論家風のコメントではなく、臨床医の立場から、映画を通して見た医療と社会について意見/異見を綴ります。

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