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新生児取り違い事件を主題に親子関係を問う
「父親」を考える『そして父になる』(2013年)

2014/10/10

 本作は、昨年秋に封切られた話題作。第66回カンヌ国際映画祭で招待作品として上映され、審査員特別賞を受けた。上映終了後は10分間のスタンディングオベーションがあり、是枝裕和監督と主演の福山雅治は涙したという。9年前の第57回の映画祭でも、同監督は『誰も知らない』(2004年)で主演した少年(柳楽優弥)に、史上最年少かつ日本人初の最優秀主演男優賞をもたらした。もちろん両作品とも、その他国内外の賞を多く取った。

 今回の『そして父になる』は、最近ほとんどお目にかかれないほど適切に内容を表した題名である。劇中の台詞が「パパ」であるのは、昨今の風潮で当然だが、題名は「父」。『そして父になる』という何気ない文言が、まさに映画を見終わった時に実感でき、腑に落ちる素晴らしさ。『誰も知らない』も優れた題名で、身勝手な母親が突然3人の子どもを放置して家を出た後、誰にも知られないところで生きる子どもの心情や行動を淡々と描いた作品だった。ただ、近所の人や親類、あるいは学校関係者が気づかなすぎる状態が現実的でない上に、最近の映画らしく「いかにも意味ありげで、凡人には分からない」場面(例えば蛇口から水が出ているのを長々写す描写)もあり、私は評価しなかった。

 今回は「起こり得る」、あるいは数は少ないが、実際にも「起こっている」事件を扱ったために不自然さがなく、誰もが「どうなるのか?」と展開に興味を持てる映画。意味不明な描写が一切ない点も好感が持てた。映画は何とも言っても筋と、それをいかに組み立てられているかの脚本が基本になる。凡人に理解不能な場面は監督の一人よがりであり、イラつかせるだけ。

 映画では、病院で新生児が取り違えられたことが、6年後の小学校入学直前に判明。その後の2組の親子の混乱と苦悩を描き、「そして父になる」のが違和感なく感動的に描かれていく。2つの家族は対比的に設定されている。福山雅治と尾野真千子演じる夫婦と息子から成る東京のエリート家族。一方、地方(群馬)でしがない電気屋を営む庶民的な夫婦はリリー・フランキー(このバカげた芸名とは程遠い多芸な才人らしい)と真木よう子が扮した。2つの家族の交流を通じ、エリートの父親が「父親として」成長していく姿を軸に展開していく。

 私は、病院から支払われるであろう「慰謝料の金額ばかり考える」庶民的な父親にも人間的に成長してほしかったが、子どもと遊ぶ時間の多さから、既に「父親になっている」ので、“善”と監督は考えたのか、変化はまったく見られなかった。

 子ども側の描写は詳しく描かれていく部分と、あまり描かれない部分がある。映画の中ほどで、子どもをそれぞれ生みの親元に返すことになるあたりは「あれ!」と思うほどあっさりしており、子どももすんなり状況を受け入れている不思議さがある。子役が上手いのは、前作と同じく、この監督の手腕であろう。

著者プロフィール

冨田和巳氏(こども心身医療研究所所長/大阪総合保育大学児童保育学部教授)●とみたかずみ氏。1967年和歌山県立医大卒。小学生の頃から映画を観つづけ、映画鑑賞が最大の趣味。『小児心身医学の臨床』(診断と治療社)、『小児心療内科読本』(医学書院)などでも映画を扱ったコラムを執筆した。

連載の紹介

冨田和巳の「映画で考える医療と社会」
今や、DVDや映画専用チャンネルなど、映画は自宅で簡単に鑑賞できる時代です。これまで映画館に行く時間がとれなかった映画好きの医師に向けて、医療・医師を中心とした作品を紹介します。映画評論家風のコメントではなく、臨床医の立場から、映画を通して見た医療と社会について意見/異見を綴ります。

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