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砂漠と戦争に翻弄される不倫物語
瀕死の患者から看護師が引き出した話とは?『イングリッシュ・ペイシェント』(1996年)

2014/08/12

 6月の本欄では、アフリカ(コンゴ)とベルギーを主な舞台として医療を扱った感動的な傑作『尼僧物語』を紹介した。今回は北アフリカとイタリアが舞台になる「患者と看護師」の傑作『イングリッシュ・ペイシェント』(1996年)を紹介する。本作は、信念・気概・勇気を扱いながら、それを堅苦しくなく描いた『尼僧物語』とは180度異なり、“人の道に外れた”不倫を主題にしている。しかし、諸々の問題が盛り込まれているために、映画らしい魅力と面白さがある。

身元不明の瀕死患者の看護を通じて癒やされる看護師
 最初の舞台は第二次世界大戦末期の北イタリア。恋人と同僚を目の前で亡くし、生きることに絶望しているカナダ人の従軍看護師が、「英語をしゃべる」こと以外は身元不明で、全身に火傷を負って移動も困難になった瀕死の患者と出会い、部隊を離れ、廃墟になった教会で1人看護するところから始まる。こうして、看護師の精神が瀕死の患者の世話を通して回復されていくのが1つの主題である。最初に登場するこの男女2人にその後それぞれ相手が登場し、2組の男女の話が進行する。

 この現在進行形の第一主題に加え、断片的な記憶をたどって患者が語る「不倫物語」が壮大な砂漠地帯を舞台に展開されるのが第二主題で、これまで小説や映画が常に描いてきた不倫の話である。主題が不倫話なので、舞台の壮大さに比べると「陳腐そのもの」と思う者もいるだろうが、映画ならではの風景描写と戦争などの要素が絡み、趣のある展開になっていく。

 ハンガリーの貴族出身で冒険家の独身男が、たまたま砂漠で人妻と出会い、お互いある種の感情の交流が起こる。映画や物語の常で、偶然に起こった大砂嵐のため、2人は車に閉じ込められ一夜を過ごし、誰もが想像するようにここから恋愛感情が生まれ、周囲に迷惑をかけても己が思いだけをまっしぐらに2人は突き進む。女性は嫉妬に狂う夫の無謀な行為で重傷を負ってしまい、これを助けようとする男の必死の行動も戦争の時代ゆえにうまくいかず、彼自身も重傷を負って「English patient」になり、冒頭場面になる。看護師がこの患者の看護を通して精神的に立ち直っていく第一主題も重要だが、映画ではこちらを簡単に描き、患者の過去の第二主題に重点を置く。時間制限のある映画では仕方がないが、それでも3時間近い長尺になっている。

見る者を魅了する「砂漠」の美しさ
 この映画の最大の魅力は砂漠である。名作『アラビアのロレンス』(1962年)も、映画としての面白さのかなり多くの部分を砂漠が占めたが、本作は違った砂漠の美しさを見せる。読む者が場面を想像して楽しむ小説を映画化する場合、凡庸な監督は単に風景の前で俳優が演技しただけに終わるが、優れた作品では風景が映画的になる。撮影監督の腕もあるが、俄然、物語が小説と違った魅力を出す。

 本作においては、話が現在と過去を行き来することに必然性があり、今時の映画の不必要な行き来とは異なる。しかし、現在進行形の話の中に、甦った記憶の話が断片的に入ってくるので、場面転換が少し分かりにくいという難点はある。

著者プロフィール

冨田和巳氏(こども心身医療研究所所長/大阪総合保育大学児童保育学部教授)●とみたかずみ氏。1967年和歌山県立医大卒。小学生の頃から映画を観つづけ、映画鑑賞が最大の趣味。『小児心身医学の臨床』(診断と治療社)、『小児心療内科読本』(医学書院)などでも映画を扱ったコラムを執筆した。

連載の紹介

冨田和巳の「映画で考える医療と社会」
今や、DVDや映画専用チャンネルなど、映画は自宅で簡単に鑑賞できる時代です。これまで映画館に行く時間がとれなかった映画好きの医師に向けて、医療・医師を中心とした作品を紹介します。映画評論家風のコメントではなく、臨床医の立場から、映画を通して見た医療と社会について意見/異見を綴ります。

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