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英・仏の競演、2組の老夫婦の物語
老々介護の結末は?『アンコール!!』と『愛、アムール』(ともに2013年)

2014/07/14

 前回、オードリー・ヘップバーンが永遠のスターであると述べ、かつての美人女優が年老いた姿を銀幕の上で見せてほしくないと書いた。その“かつての美人女優”が実年齢の役をして、老人の病と死を扱った2本の映画が、昨年相次いで公開された。

日本的情緒すら感じる明るい映画『アンコール!!』
 まずは英国映画の『アンコール!!』から。癌の再発で、余命いくばくもない妻が老人合唱団「年金ズ」に入っているところから始まる。夫は気難しく人と交流するのが嫌いな、傍目には「煮ても焼いても食えない」男。唯一の取り柄(?)は妻を一途に愛していること。息子も訳ありで離婚して一人娘と二人暮らしらしく、父親と息子の間には葛藤があって関係は良くない。誰からも好かれる妻が、家族関係を支え、社会にも窓が開かれている。

 日本のどこにでもある風景で、共感しやすい設定となっている。ときおり、同じ島国でも根本的に文化が異なるアングロサクソンの英国から、意外に日本的情緒にあふれた作品がやってくる。以前、『秘密と嘘』(1996年)という日本人に極めて親和性のある秀作があったのを思い出す。

 不自由な体の妻を合唱団に送り迎えする夫だが、この男は集まりがどのようなものか、まったく興味を持たない。予想がつく流れだが、映画の途中、楽団員全員から愛され惜しまれながら妻が亡くなり、後半は妻亡き後のこの男の物語になる。この後もほぼ予想した展開になり、皆が幸せな気分になって終わる。

 妻役は英国で代々続く俳優家系のヴァネッサ・レッドグレイヴ。英国美人で気品があり、演技も確かで、先月紹介したジンネマン監督の傑作『ジュリア』(1977年)では片足を失くした女性運動家になって、上半身のみで名演技を魅せた。気品ある美人としての役は、ミュージカル映画『キャメロット』(1967年)の女王役が代表。本映画でも美人の面影は残すものの、75歳での出演では、先月も書いたように「美人女優の成れの果て」の感は拭えない。相手の夫役は、巨匠ウィリアム・ワイラー監督の『コレクター』(1965年)で蝶を集める変人を演じて有名になった性格俳優で、もっぱら脇役で活躍したテレンス・スタンプ74歳。

介護側の心情から“しんどさ”に身をつまされる『愛、アムール』
 もう一方はフランス映画の『愛、アムール』。わが国での公開は昨年であるが、一昨年のカンヌ映画祭で最高賞を取った作品。最近の邦題の愚かさを120%出して、日本語と同じ意味のカタカナをわざわざ並べ、日本語だけにしない「いじましさ」に現代を感じる。こちらは以前本欄で分からない芸術映画の代表と紹介した<b/>『二十四時間の情事』(1962年)に出たフランス美人女優エマニュエル・リヴァで御年85歳(アカデミー賞史上最高齢でノミネートされた)。相手役はジャン=ルイ・トランティニャンで81歳。彼は往年の二枚目で主演作も多く、『男と女』(1966年)が最も有名。

 夫婦共に老人特有の神経系の病の兆候があるところに、妻は手術の失敗で半身不随になり、少しずつ症状が悪化し老々介護になる。開巻、開かないようにしてあるアパートの一室に捜査官が踏み込み、老女が死体になっているのを見つけるところから、映画は過去に遡る。現在と過去を交差させたがる現代映画の特徴!本作はカンヌ映画祭で最高賞を受賞しただけあって、普通に過去に戻る描写をしない。捜査官が踏み込んで老女の死体を見つけた途端に、画面が劇場の観客席を舞台から写す場面に変わり驚かされる。観客の中に死んだ老女も居るのだと誰もが推測できるが、遠景なので分からない。さらに、延々と観客席をカメラが写すが、舞台からなので、映画館?劇場?演奏会場?何の劇場かも分からないまま、同じ画面が何の変化もなく写されていく。このあたりが芸術映画の真骨頂で、感性のある者はいろいろ考えろ!というわけであるが、凡夫の私には「何を粋がっているのだ、早く本題に入れ!」と言いたくなる…。

 やがてカメラの裏側にある舞台に演奏者が出てきたらしく、観客が拍手をして、ピアノの音が聴こえる。ピアノ独奏会であったと分かる次第。演奏会が終わって一組の老夫婦にカメラが近寄っていき、やっと死んだ老女と夫の生前の姿と推測される。描写が懲りすぎて、その技法がこの映画の内容とどのような関係があるのか、私には分からない。必然性が分からない描写が、最近の粋がる映画の特徴で、私のような老映画ファンには「あざとさ」だけが目立ち腹立たしい。評論家はこのような作品を評価しないと「飯の食い上げ」になるので、映画祭ではこれが最高賞を取るのか?

 この映画は病んだ妻を介護する夫の姿や心情が丁寧に描かれるが、老人領域に入った私には、老々介護の「しんどさ」を映画でまで見たくないという思いが強く出る。若い頃にみれば、先の遠い話で感動したかもしれないが…。

著者プロフィール

冨田和巳氏(こども心身医療研究所所長/大阪総合保育大学児童保育学部教授)●とみたかずみ氏。1967年和歌山県立医大卒。小学生の頃から映画を観つづけ、映画鑑賞が最大の趣味。『小児心身医学の臨床』(診断と治療社)、『小児心療内科読本』(医学書院)などでも映画を扱ったコラムを執筆した。

連載の紹介

冨田和巳の「映画で考える医療と社会」
今や、DVDや映画専用チャンネルなど、映画は自宅で簡単に鑑賞できる時代です。これまで映画館に行く時間がとれなかった映画好きの医師に向けて、医療・医師を中心とした作品を紹介します。映画評論家風のコメントではなく、臨床医の立場から、映画を通して見た医療と社会について意見/異見を綴ります。

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