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『通』に名監督も凡夫には“迷”監督
中年の女医をストーキングする初老の男性の物語『風にそよぐ草』(2009年)
【登場:女医(歯科医)】

2014/04/14

 去る3月1日、フランスの名監督、アラン・レネが亡くなった。享年91歳。恐らく、この監督ほど難解で、“通”が絶賛する芸術映画を撮った人はいなかった、と思える。しかし、観客、特に私のような凡人には、文句なく「迷」監督であった。

 彼はアウシュヴィッツ強制収容所の記録映画『夜と霧』(1955年)で有名になり、その後、相次いで公開された劇映画『二十四時間の情事』(1959年)と『去年マリエンバードで』(1961年)で俄然注目を集めた。特にカンヌ映画祭とベニス映画祭で、それぞれが最高賞を取っていたから当然である。

 最近は映画祭も多くなったが、当時はそれほど多くなかった。このフランスとイタリアの映画祭が最も有名なのは古くから今まで同じで、実際にココで賞を取ったものは、当時はほとんどが素人にも分かる面白い映画だった。その2つの映画祭で賞を取る以上、「素晴らしいに決まっている」と思い、超難解と前評判が高い2作品を、恐る恐る見に行った。

 前者『二十四時間の情事』は、広島を訪れたフランス人女性と、岡田英次扮する建築家の行きずりの恋から始まる。冒頭は、ホテルのベッドで抱き合い、観念的会話を延々と続ける間に、広島の惨状を写した映像が何度も入るという長い場面。最近のベッドシーンからみれば、幼稚園児に見せても構わないほどの描写ながら、不謹慎に感じ、まったく共感できなかった。

 後者の『去年マリエンバードで』は、3つの脚本をばらばらにして、出演者もどのような場面か分からないまま演じ、監督が後でつなぎ合わせて1本の映画にしたという作品。さすがの私も途中で眠り、しっかり見ても分からないものが、さらに分からなくなった。

 さて、この監督は5年前、87歳で『風にそよぐ草』(2009年)という作品を撮り、カンヌ映画祭でまたまた審査員特別賞をとった。さらに、最近のカタカナ題名ばかりの時代に、夢のある(と、勝手に私が思った)邦題が付いていた。

 若い頃は超難解な映画を撮っていた監督が87歳になって、宣伝がうたう「ロマンティックコメディ」を撮ったとすれば、映画ファンとしては一度見ておこうと思って当然。もっとも、世界の映画史上、常に最上位に推される黒澤明でも、高齢で撮った作品は、面白くないものばかりだったから、危惧の念は多少あった。しかし黒澤は、若い頃は素人にも面白い傑作を撮り、老年で面白くなくなったのだから、その逆をいくレネなら、ひょっとすると老年になって面白い分かりやすい映画を撮ったかも、と期待して…。

著者プロフィール

冨田和巳氏(こども心身医療研究所所長/大阪総合保育大学児童保育学部教授)●とみたかずみ氏。1967年和歌山県立医大卒。小学生の頃から映画を観つづけ、映画鑑賞が最大の趣味。『小児心身医学の臨床』(診断と治療社)、『小児心療内科読本』(医学書院)などでも映画を扱ったコラムを執筆した。

連載の紹介

冨田和巳の「映画で考える医療と社会」
今や、DVDや映画専用チャンネルなど、映画は自宅で簡単に鑑賞できる時代です。これまで映画館に行く時間がとれなかった映画好きの医師に向けて、医療・医師を中心とした作品を紹介します。映画評論家風のコメントではなく、臨床医の立場から、映画を通して見た医療と社会について意見/異見を綴ります。

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