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全48作を振り返る
国民的映画『男はつらいよ』に登場した医師たち

2014/01/14

 ギネスブックに世界で最も長い連続映画として掲載された『男はつらいよ』は、主役の渥美清が平成8年(1996年)に亡くなって、48作で終わった。それから既に20年近いが、今も根強い人気があり、各テレビ局が放送し続け、DVD全集も出ている。私も熱烈なファンで、当然48作全てを見ている。特に好きな作品は飽きもせず何度も見てきた。

 最近、山田洋次監督がインタビューで「日本の素晴らしい風景を発見すると、寅さんを撮りたくなる」と話しているのを聞いた。誠にこの映画は、登場人物から画面に至るまでの全てで「日本そのもの」の善き面を表現していたのだ。

終末医療問題を扱った『サラダ記念日』
 この48作の中で、医師が重要な役として出てくる作品が2つある。1つは、寅さんが恋心を抱くマドンナに、三田佳子演じる「悩みをもつ女医さん」が登場する第40作『寅次郎サラダ記念日』(昭和63年[1988年])だ。

 『サラダ記念日』は、当時話題になった俵万智の歌集に由来している題名で、画面に応じて歌が挿入され、俵の卒業した早稲田大学が出てくる。この大学で寅さんが学生相手に迷講義を行う場面は、山田と渥美コンビの手慣れた面白さが出て逸品だ。

 本筋では、女医さんと独居老人の関わりを通して、終末医療の問題を扱っている。ここに寅さんが登場し、例の如く女医さんに恋心を持つことになる。日常の生活や忙しい医療に疲れ悩む女医さんも、寅さんの明るさ、優しさ、純粋さに惹かれ癒されていくが、今回は寅さんが中年の良識で身を引く形で終わる。

 映画では小諸地方の風景が美しく描かれ、同地出身の画家・小山敬三の絵画と同じ構図の風景が三田の住まいの窓から見える。このように、細かな部分にまでこだわって撮る山田の姿勢に感動する。このこだわりが、毎回同じ俳優陣が「寅さんの失恋話」という同じような内容を演じているにも関わらず、常に観客に楽しみを与えてくれるのである。これこそ超一流監督だろう。

 今、改めてこの連作を見ていると、封切当時の評論家による種々の批判は、「いちゃもん」的な面が多かったと実感する。もちろん全48作の中には多少不出来なものもあるが、それでも凡百の喜劇は足元にも及ばない。

頑固な獣医と寅さんの恋が並行する『知床旅情』
 もう1つは、寅さんの恋物語と、頑固で孤独な初老の獣医の恋物語が並行する第38作『知床旅情』(昭和62年[1987年])だ。獣医は三船敏郎が演じ、相手役は淡路恵子だった。この2人は黒澤明の初期の傑作『野良犬』(昭和24年[1949年])で初共演している。淡路恵子は『野良犬』が映画初出演で、本名で演じた。ここに山田の楽屋落ち的な遊びを見る。

 『知床旅情』で寅さんが惚れるのは竹下景子だ。彼女は頑固な父親(三船敏郎)の反対を押し切って結婚したものの、夢破れて故郷・知床に帰り、寅さんと出会う設定だ。ここでも先の『サラダ記念日』同様、寅さんが身を引く形で終わる。この連作では、渥美の年齢が上がるにつれ、寅さんが初期に見せた破天荒な言動が少しずつ減って「訳知り」になり、狂言回しの役になる場合も多くなる。今回は初老の頑固で口下手な獣医に、寅さんが恋の指南役を請け負う。なお、この作品の冒頭で、おいちゃんが肺炎になり、入院した病院の医師も一瞬出てくるが、ここもなかなか巧く描いており、しかも面白い。

著者プロフィール

冨田和巳氏(こども心身医療研究所所長/大阪総合保育大学児童保育学部教授)●とみたかずみ氏。1967年和歌山県立医大卒。小学生の頃から映画を観つづけ、映画鑑賞が最大の趣味。『小児心身医学の臨床』(診断と治療社)、『小児心療内科読本』(医学書院)などでも映画を扱ったコラムを執筆した。

連載の紹介

冨田和巳の「映画で考える医療と社会」
今や、DVDや映画専用チャンネルなど、映画は自宅で簡単に鑑賞できる時代です。これまで映画館に行く時間がとれなかった映画好きの医師に向けて、医療・医師を中心とした作品を紹介します。映画評論家風のコメントではなく、臨床医の立場から、映画を通して見た医療と社会について意見/異見を綴ります。

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