米国では手術室を、外科医がパフォーマンスを披露する場所という意味も含め、Theaterと呼ぶことがあります。そのためではないとは思いますが、手術室にPA(Public Address:音響設備)を設置し、オーディオルームばりにして、気持ちを落ち着かせるため、もしくは“がんがんノリノリ”にするために音楽を流している外科医は少なくありません。
世界的にはどうなんでしょう?僕が以前働いたベルリンもシドニーも、手術室は静かで音楽は流していませんでした。ただ、日本では多い気がしますね。
手術支援に他の病院に行くことがありますが、手術場全体に有線で流していたり、それぞれの手術室でお気に入りの音楽を流していたり、中には、開胸時と閉胸時は別の音楽を流し、人工心肺中は音楽停止というルールの病院もありました。お気に入りの音楽を流すことで、外科医ばかりでなくスタッフ全員に共通の“リズム”が浸透しているように感じられました。
僕のところは、手術室にミニコンポを持ち込んでいます。特に音楽にお気に入りというのはないけれど、気分良く、当たり障りなく聞ける(“聴く”ではなく“聞く”)J-popなどを流しています。ただ、手術室で聞くのには向かない曲もあります。一つが、自分にとって思い入れのある曲です。
MISIA もGONTITIも手術室ではNG
例えば、MISIAはお気に入りのアーチストの1人ですが、「いつまでも」「心ひとつ」「つつみ込むように」などは、凄すぎてきっと手が止まってしまいます。スガシカオもよく聴くけれど、やはりきっと聴き入ってしまうでしょう。いずれにせよ、手術には向きません。
なら、耳触りのいいイージーリスニングならいいかというと、必ずしもそうではありません。お気に入りのアコースティックギターデュオGONTITIの「放課後の音楽教室」「課外授業」「山の温泉宿」などは絶対ダメ。曲で歌われている情景を思い浮かべてしまい、気持ちがどこかに行ってしまいます。特に「放課後…」とか聴いていると、ジーンとしちゃって…。
では、歌詞のないクラッシックならどうかって? ダメ、全然ダメです! まず、オーケストラ曲はそもそもNG!フォルテッシモからピアニッシモまで音量の差が大きくって、自然と耳をそばだててしまいます。そもそも大好きなだけに、クラッシックが流れたら手術どころじゃなくなっちゃう。
つまり、思い入れのある曲や好きなジャンルの音楽など、聞き入ってしまうものは不向きだということです。それほどまでには思い入れがない耳障りが良い音楽というのが、手術室向けのBGMということになるのでしょうか。
術後にスタンダードジャズを聞く理由
ただ、手術以外では、好きな音楽を聞きながら仕事をしています。術後は手術ノートをつけていますが、その際にはピアノを聞くことが多く、特にベタなスタンダードジャズが好み。術後の反省(?)って心情に、何となく合っているのかもしれません(笑)。オスカー・ピーターソン、ビル・エバンス、小曽根真も時々聞きます。彼の奏でるバッハって面白い!
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連載の紹介
昭和大元教授「手取屋岳夫の独り言」
「最近の日本の医療って、ちょっとおかしくない?」…と愚痴は出るものの、医師という仕事はやっぱり素晴らしい!一外科医として、大学教授として、教育者として感じた喜び・憤り・疑問などを、時に熱く、時には軽〜く、語ります。
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