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デバイスラグ問題と日本の「ノーリスク志向」

2010/10/01

 ここのところ、デバイスラグドラッグラグの問題が巷で騒がれています。循環器の分野は、PCI(経皮的冠動脈形成術)も外科も、デバイスラグには長い間悩まされてきました。「医療鎖国状態」って憤る人も、決して少数ではありません。

 僕もたぶん、5年前だったら、「とにかく遅い、やってられない、最新のデバイスを早く!」と一方的にわめき散らしていたと思います。ただ、最近では、ちょっと大人(?)になったのか、考え方が変わってきました。

 目の前にいる一人ひとりの患者さんへの診療を考えれば、やはり、デバイスラグにはいら立ちます。一方で、日本の医療全体で見た場合(ここらへんの頭の切り替えはちょっと難しいところですが…)、こんな高水準の医療を、どこでも誰でも、そしていつでも受けることができる国は、世界中見渡しても日本以外にはない!で、結果的にせよ、日本の医療制度を支えている大きな柱の一つは、めちゃくちゃ厳しい許認可制度だと思うんです。

 例えば、最新のデバイスを安易に保険適用にしてしまうと、財政的には既にギリギリの状況にある国民皆保険制度が破綻するんじゃないかって、少しばかり心配です。

 こう言うと、「だったら混合診療を全面的に解禁すればいい!」って声が聞こえてきそうですが、これもそう簡単な話じゃないように思えます。混合診療が普及すれば、これまで全額自己負担だった保険外診療の一部に保険が適用されるわけですから、短期的には保険支出は増えるでしょう。

 他方、医療機関において保険診療から混合診療へのシフトが起こったり、財政的な理由からこれまで保険診療だった医療行為の保険外しが進んでしまえば、これまで以上の負担を強いられる患者が増える可能性もあります。

 また、原則3割負担の現在でも、医療費の不払いが問題になっています。そのことを考えると、医療関係者と患者の双方にしっかりとした覚悟と意識改革がないと、混合診療を安易に拡大するのは危険じゃないかなぁ・・・。医療はタダで当たり前と思っている人が決して少なくないと感じているので、かなり心配です。

 ですから、今は、デバイスラグやドラッグラグ、さらには混合診療の議論は、慎重に進めなきゃならないと思っています。

“逆輸入”で注目されたステントグラフトの悲しさ
 日本で医薬品や医療機器の承認審査業務を担っているのは、医薬品医療機器総合機構(PMDA)です。

 PMDAによる審査期間は、一時長期化の傾向にありました。その背景には、度々起こった薬害事件などにより審査が厳格化され、その一方で十分なマンパワーが補充されていないという事情もあったようです。しかし、官僚的(純日本的?)事なかれ主義からか、認可のプロセスにおいて医学的ニーズをそれほど重視せず、石橋を叩いて割ってしまうようにも感じられるPMDAの慎重な姿勢が、デバイスラグやドラッグラグを深刻化させた面も否定できないと思います。

 審査承認に関するこうした閉塞感は、医療側の開発意欲をそいでしまいます。悪影響を受けるのは、患者だけではないのです。

連載の紹介

昭和大元教授「手取屋岳夫の独り言」
「最近の日本の医療って、ちょっとおかしくない?」…と愚痴は出るものの、医師という仕事はやっぱり素晴らしい!一外科医として、大学教授として、教育者として感じた喜び・憤り・疑問などを、時に熱く、時には軽〜く、語ります。

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