
『医療訴訟の「そこが知りたい」』
日経メディカル 編
A5判、3800円+税
今回は、日経BPから6月28日に刊行された新刊本『医療訴訟の「そこが知りたい」―注目判例に学ぶ医療トラブル回避術』の書評です。
この本を手に取って思い出したのは、同じく日経BPから1990年に刊行された『医事紛争予防学―インフォームドコンセントを求めて』です。この本が出たころの私は、まだ弁護士ではなく、法学部を卒業した法学士の医師でした。医師になって8年、恐ろしいトラブルの話もずいぶん耳にし、このような書名を見ても驚かないほど医療紛争も増えてきていました。そして今、実際の医療訴訟をベースに、トラブルをいかに回避するかを論じた書籍が登場する時代になりました。
狭義の医療訴訟というと、民事の医療にまつわる訴訟事件ですが、本書は広義の医療訴訟を扱っており、このところ大きな話題となった刑事事件、さらに行政処分、名誉毀損や労働問題まで幅広く取り上げています。執筆陣は、私のような医師と弁護士のダブルライセンサー、医療側弁護士などの7人です。
各事件を扱った記事の構成は、まず事件の内容をまとめた「事件の概要」欄、次に判決内容を要約した「判決」欄、そして法学的な説明ばかりに偏らず、法律家は何を基準に判断を下しているかなどを分かりやすくまとめた「解説」と続きます。
また、読者が判決理由などをしっかりと理解できるように、「3分でわかる判決のポイント」というQ&A形式の解説が添えられています。法律家でないと分かりにくい、司法の判断の根拠を知る手助けになるものです。
ちなみに、冒頭でご紹介した『医事紛争予防学―インフォームドコンセントを求めて』は、既に絶版になっていますが、図書館などで探してみて、今回の新刊『医療訴訟の「そこが知りたい」』と併せて読まれれば、医療紛争についての法的リテラシーの向上が望めると思います。何はともあれ、ご一読ください。私の言っていることが決して“おべっか”ではないことが分かっていただけると思います。
幸か不幸か、医療訴訟の件数は数年前に頭打ちとなり、このところは減少傾向にあります。しかし、他方で医療版ADRなど、従来とは違った形で医療紛争の解決が図られるようになってきています。このような転換期にあっても、これまでの医療訴訟のトレンドを知り、検証する作業はやはり大切です。その際に、この10年の医療訴訟の変遷を分かりやすくまとめた本書は、掛け値なしでお薦めです。