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看護師の患者虐待事件と母親乳幼児虐待との共通点

2010/04/02

 このところ、看護師が患者に危害を加えたとして逮捕される事件が続きました。

 一つ目の事件は、兵庫県の佐用共立病院の患者肋骨骨折事件です。昨年1月、同病院に入院中の6人の高齢患者に胸部を圧迫するなどの暴行を加え、肋骨骨折のけがを負わせたとして、3月11日に26歳の看護師が傷害罪の容疑で逮捕されました。

 もう一つの事件は、京大付属病院に入院中の94歳の女性患者が一時意識不明になり、血中から高濃度のインスリンが検出された事件です。3月21日、不必要なインスリンを多量に投与したとして、殺人未遂罪の容疑で24歳の看護師が逮捕されました。

 事件の詳細や犯行動機などはいまだ明らかでなく、今後の刑事処分や裁判の中で明確になっていくであろうと思われますが、これらの事件に関して報道されている客観的事実からは、子供への虐待の背景として指摘される「代理(人による)ミュンヒハウゼン症候群」との共通性を感じます。

 「ミュンヒハウゼン症候群」とは、自らが病気であると偽装する虚偽性障害を指しますが、「代理ミュンヒハウゼン症候群」とは、本人の詐病ではなく、脆弱な乳幼児などを「病気にしてしまう」ケースで、親がわが子の病気をでっちあげるといったパターンがその代表例です。「ミュンヒハウゼン症候群」は「自分をかまってほしい」という欲求がベースになっているといわれますが、「代理ミュンヒハウゼン症候群」は、献身的に看護する自身の姿を通じて周囲の関心を引こうとするのが特徴です。子供は不必要な検査や治療、手術までされる危険を負い、下手をすると致命的な結果になりかねません。

 医療従事者の中には、このところ「代理ミュンヒハウゼン症候群」が増えているのではないかという声もあります。ただ、疾病として見るにせよ、犯罪として見るにせよ、擬態が入った態様ですから軽微なものや手の込んだものは発覚しにくく、その実態を捉えるのは容易ではないでしょう。最近も、奈良や京都の病院で、母親が入院中の子供に危険な薬剤を与えたり、点滴に異物を混入したなどとして立件されています。

 代理ミュンヒハウゼン症候群は母親に多く、犠牲となるのはほとんどが乳幼児です。親は、虚偽の症状を訴えて、検査や治療を要求します。虚偽の症状は真に迫っていて、実際に緊急に検査や治療をしないと危険であると思われるような訴え方をします。子供の症状を偽装するだけでなく、血液や尿の検体の捏造に及ぶこともあるなどの特徴があります。

 代理ミュンヒハウゼン症候群を疑わせるサインには、次のようなものがあります。最終的に説明のできない症状を繰り返す。親の訴える症状と診察や検査所見との間に矛盾がある。症状は親がいるときにしか起こらない。常に子どものことを心配し、優しく対応して、一時も子供のそばを離れようとしない。病院スタッフには協力的で、病院では生き生きと立ち振る舞っている。このような様子から、代理ミュンヒハウゼン症候群が鑑別診断に挙がってくるようです。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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