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自殺者3万人時代におけるプライマリケア医の役割

2010/01/15

 ここ10年ほど毎年自殺者が3万人を超えています。警察統計や厚生労働省が行う人口動態統計の死因別死亡者数から、自殺者数は、ほぼ正確に把握されているといってよいでしょう。

 専門家は、失業者数の増減と自殺者数の増減が強く関連していると指摘します。失業に限らず、生活苦が、直接あるいは間接的に自殺に結びついているのは間違いないでしょう。

 もちろん失業による生活苦などの経済的問題だけでなく、病を苦にしたケースや、身の置き場のなさや孤独が原因の自殺もあります。2008年のリーマンショックが発端となった世界金融危機で失業者数が急増しましたが、自殺者数については今のところ目立った動きは見られません。経済的な要因だけでは説明できないところに自殺問題の難しさがあります。

 しばらく前に、医者仲間で「自殺は是か非か」という井戸端会議風の議論をしたことがあります。生命倫理に強い関心を持つあるドクターは、自己決定権の選択肢の一つとしてはあり得るが、臨床医としてはもちろん、患者の生命を守ることを最優先すると話していました。わが人生を思い返しても、診療を受ける前に、このまま死んでしまった方が楽かもしれないという気持ちになったことが何度かあります。それでも、誰かが「死にたい」という意思表示をしたら、臨床医としても市民としても、それを阻止するほかありません。

 さて、今回ご紹介する書籍『プライマリ・ケア医による自殺予防と危機管理』(南山堂)は、自殺予防に熱心なプライマリケア医たちが、衆知を集めて編集した実践書です。プライマリケア医だけでなく、精神科医や弁護士、看護担当者なども執筆陣に加わっています。

 希死念慮にさいなまれる患者さんは、必ずしも抑うつ状態に陥って精神科医の下に飛んで行くというわけではありません。多くは医師にかかること自体を躊躇して悶々としたり、周囲から受診を勧められても迷路のような思考と心理の中で、日々精神的に堂々巡りをする人々も少なくありません。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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