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不審死続発時代における検視と司法解剖

2009/12/08

 埼玉、鳥取と不審死が相次いだこともあってか、最近の報道では、わが国の検視体制に言及されることが多くなっています。12月3日付北海道新聞に、当地における検視体制の変化についての記事が掲載されていますので、その内容を基に、この制度のこれまでと今後についてお話ししてみたいと思います。

 記事は、このところ不審死事件が相次いだことのほかに、社会の高齢化に伴って独り暮らしなどで死因が一見して分かりにくいケースが増えているという背景から、道警も刑事調査官(検死官)を増員して現場への出動回数を増やし、医療機関とも連携して遺体の検査設備の充実を図っていると伝えています。

 具体的には、今年4月から道内調査官を7人から9人に増員した結果、4~10月に扱った遺体3720体のうち調査官出動が1246体となり、出動率が過去最高の34%と全国トップクラスになったそうです。5年前の年間出動率9%に比べて大幅増、前年同期との比較でも9ポイント高くなっています。

 また、検査精度向上のため、道警は2007年に医療機関のCTで検査する死亡時画像診断を導入し、今年10月には遺体発見現場に携帯できるエコー装置も5台配備しています。ただ、他方で法医学者の不足もあって、道警が扱った遺体のうち、司法解剖した割合は5%に留まっています。本年10月に、国家公安委員長の中井治氏が、連続不審死事件について、死因究明体制の不備が後の捜査に困難を招いたという認識を示しており、警察庁が来年度から庁内に外部有識者による研究会を設置し、検視や解剖の在り方を見直す方針であるとして記事は締めくくられています。

 死因究明体制の整備がなかなか進まない理由はいろいろと考えられますが、一番には現在の余裕のない社会情勢が挙げられるでしょう。先般、本ブログの「医療事故調の議論に患者側医療弁護団が投じた一石」に、「医療崩壊により医師の過重労働は深刻化し、生きている人の診療すらままならないのに、死んだ人の真相を究明している場合ではないでしょう…」というコメントをいただきました。このように、医師が死因の究明の前に、生きている患者の治療で精いっぱいというのが現状です。

 やれ振り込め詐欺だ、ストーカーだ、ネット犯罪だと、警察もやるべき仕事が増えるばかりで、また、検視に協力する医師や医療機関も大忙し。さらに司法解剖を行う法医学者も人手が足りません。そうなると、「必要ですが、先立つものが…」と、総論賛成、各論不能ということになりかねません。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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