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「縊頸(いっけい)」と「胃けいれん」の間の深い溝

2009/10/16

 前回(2009.10.13「救急救命士の医療行為拡大の歴史を振り返る」)に続き、今回も救急についてお話しします。新聞報道によると先月、夕張市で次のような事件が起こりました。9月27日午後11時すぎ、中学生が自宅で首をつっているのが発見されました。駆けつけた救急車は夕張医療センター(市立診療所)に受け入れを求めましたが、センターは市外の病院へ行くようにと指示したということです。

 結局、中学生は市内の医院で死亡が確認されました。今回の経過について、有床診であるセンターは市内で唯一の入院施設であり、開設主体が夕張市であることから、夕張市は10月8日の市議会で、市消防本部救急隊とセンターのやりとりの調査結果を公表しています。

 それまでの新聞報道は、救急隊からセンターに「心肺停止の14歳男性」の受け入れ要請を行ったが、当直の事務職員が、首つりを意味する「縊頸いっけい)」という専門用語を理解できずに、「胃けいれん」などと混同して、看護師を通じて当日当直だった村上智彦医師に情報を伝えたところ、村上氏は小児科専門医のいる3次病院への搬送を指示したというものでした。

 しかし、このほど公表された市の調査によると、救急隊は「首つりによる心肺停止状態と説明し、受け入れを要請した」としており、対する診療所の村上氏は「首つりとは聞いておらず、インフルエンザ脳症の可能性も疑われるので専門病院に行くよう指示した」とのこと。真相ははっきりしません。

 縊頚という言葉は、法医学などではよく使われる専門用語ですが、一般の医療者にはあまり耳なじみのない用語です。その点は置いても、心肺停止の小児患者に、1次医療機関がどのように対応するかは非常に難しいところです。今回のケースはすぐに市内の医院で死亡が確認された縊死事件ですから、仮にセンターが受け入れていたとしても、死亡確認で終わっていた可能性が高かったでしょう。

 しかし、もしこれが村上医師が疑ったインフルエンザ脳症ならどうだったでしょうか。前回も話題にした通り、救急救命士のファーストエイドはかなり広く認められるようになってきました。1次医療機関で時間を費やすよりも、3次医療機関に直行した方が妥当なケースも少なくないように思われます。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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