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相次ぐ医師のワイセツ事件―疑惑を招かないための対策が不可欠に

2009/06/02

 ここ最近、医師が強制わいせつ罪や準強制わいせつ罪で逮捕されたり、判決を受ける事件が続けて報道されています。今回は、この問題について考えてみたいと思います。

 今年の5月7日に、大腸内視鏡検査を受けた当時20歳代の女性の陰部に内視鏡を入れるなどわいせつな行為をしたとして、53歳の外科医が逮捕された事件が報道されました。この事件については、この日経メディカルオンラインにも論評記事が掲載されています(2009.5.29「手が滑ったのか、わいせつか―行き過ぎた医療訴訟が現場を疲弊させる―」)。

 私も、初めてこの事件の報道を聞いたときに、「前代未聞の事件では?」と驚くとともに、「どうしてこのような事態が生じたのか?」という疑問を持ちました。なぜそう思ったのかと言いますと、大腸内視鏡検査は、通常医師が単独で行うことはなく、看護師や検査技師、同僚の医師などが立ち会っているものです。複数の人間が立ち会うであろう場所で、どうして強制わいせつ罪を疑われるような事態が生じたのか、今一つ想像できなかったのです。

 仮に、電子スコープを用いた内視鏡検査であれば、モニターに画像が映し出されますから、医師だけでなく周囲のスタッフも検査の状況を見ることが可能ですし、後でその画像を見ることもできます。もし検査中に、わいせつ行為と判断されるような振る舞いに及んだとしても、他のスタッフに気づかれてしまうのではないでしょうか?このような疑問点についてはあまりメディアでは報じられていませんが、もし起訴されるとしたら、公判の中でそれが明らかにされるのでしょう。

 また5月28日には、福岡市の病院の耳鼻咽喉科診察室で、のどの治療で初来院した当時20歳の女性のひざに、露出した陰部を数回押しつけた疑いで、41歳の医師が準強制わいせつ罪で逮捕されました。この医師は「女性の勘違い」と否認しているそうです。

 また同じ日には、診察と称して女性患者にわいせつな行為をしたとして、準強制わいせつ罪に問われた福岡市の産婦人科開業医が、控訴審で無罪を言い渡されました。

 この医師は、06年の3月から4月にかけて、医師のクリニックを受診した当時16歳の女性らに、診療を装って陰部を触ったり写真を撮るなどわいせつ行為を繰り返したとして、準強制わいせつ罪に問われており、福岡地裁による1審判決では、3件の事件のうち2件について懲役2年、執行猶予4年(求刑・懲役5年)とされました。

 この事件の控訴審で、福岡高裁は「診療行為だったという被告の供述は不合理とはいえない」として全面無罪の判決を言い渡しました。被害者の供述の信用性が、記憶の薄れや勘違いの可能性があるとされたのも無罪の理由となったようです。ただ、上記の事件は、今後の進展でどのような結論になるか分かりません(最後の控訴審無罪の事件は上告がなければ無罪確定します)。

 これら強制わいせつ罪に問われている行為は、刑法学でいわゆる「傾向犯」と説明されるものです。傾向犯とは、「行為が行為者の特定の心情または内心の傾向の表現として発現する犯罪」のことをいい、強制わいせつ罪の場合は「性的衝動を満足させる心理的傾向」があって、その行為がそのような主観的傾向の表出と認められる場合に限って犯罪が成立するとされています。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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