日経メディカルのロゴ画像

5県警が検視用にエコーを配備―死因究明にどこまで有効か?

2009/03/19

 新聞各紙は、警察庁が3月8日までに、山形、栃木、石川、和歌山、徳島の5県警に携帯型超音波検査装置(エコー)を配備し、検視に活用させる方針を決めたと報じています。

 警察庁によると、大分県警が2008年秋に、県の予算で携帯型エコーを1台導入しましたが、国費での配備は今回が初めてです。過去数年間で、検視官が現場に出向いた割合が高かった和歌山や徳島など全国5つの県警で先行して導入し、効果や実用性を検証した上で、ほかの都道府県の警察にも配備するかどうかを検討する方針になっています。

 医師法第17条は、「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定めています。しかし、検視の対象は死体なので医業には該当せず、死因を探るのに医師以外の人間がエコーを利用しても、医師法第17条違反にはなりません。

 刑事訴訟法第229条第1項は、「変死者又は変死の疑のある死体があるときは、その所在地を管轄する地方検察庁又は区検察庁の検察官は、検視をしなければならない」と定め、同条2項は、「検察官は、検察事務官又は司法警察員に前項の処分をさせることができる」と定めていますが、エコーの所見を採取するとなれば、やはり医療従事者の協力が必要になるでしょう。

 警察庁は、当面はエコーを医師の立ち会いや指導の下で使用し、将来的には、検視官も画像を見極められるようにしたいそうです。警察庁は、検視官の増員などを2009年度予算に盛り込んでいるほか、2007年度から毎年、遺体をCTで検査する費用を補助するなど、死因究明体制の強化に取り組んでいます。

 その背景には、警察が扱う遺体が年々増加し、昨年は変死体が16万体を超えたことや、法医学者の協力を求めるにも、法医学教授のいない大学が珍しくない昨今の厳しい「業界事情」がありそうです。

 ところでちょっと前までは、専門家でない筆者にとっては、エコーでどこまで死後診断ができるのか疑問でした。CTやMRIでさえも死後変化の影響はまぬがれません。しかも、エコーはプローブの当て方によって画像の質がずいぶん違ってきますし、得意領域の心血管系に関しては、死後ならば血流や拍動がありません。また、骨などの硬組織では超音波がほとんど反射されてしまうため、頭蓋内の所見などは期待できないと考えていたからですが、エコーを検視に利用したとしても、その効果のほどは「帯に短し、たすきに長し」になりかねないのではないか。今回の新聞各紙の記事を読んで、そのように感じていました。

 しかし最近、そんな素人の誤解を正す専門文献を見つけました。内ヶ崎西作先生(日大法医学教室)の「超音波診断の応用について」(「画像診断と死亡時医学検索シリーズ―5」モダンメディア 53巻12号2007)という論文です。この論文は、エコーによる死体画像診断の可能性と限界を簡潔にまとめています。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

この記事を読んでいる人におすすめ