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混合診療回避に新たなアイデア―北大病院がピロリ菌外来

2009/01/30

 一昨年の11月、東京地方裁判所で「混合診療の禁止は違法」という判決が出ました(2007.11.8「混合診療を認めないのは違法――東京地裁判決を読む」原告の患者さんのホームページを拝見すると、現在控訴審でガチンコの第2ラウンドの最中のようです。

 下級審の判決例はあくまでそういう判決があったという位置づけであり、最高裁判所の判例のように先例性はありません。また、当の事件でさえ未確定の審理途上ということで、厚生労働省も従来の混合診療原則禁止を堅持する姿勢です。そのため、「保険が適用される保険診療と、全額自己負担の自由診療を併用すると混合診療とみなし、保険診療の分まで全額自己負担とする」というルールは今も維持されています。

 そんな中、1月24日付の北海道新聞は、北海道大学病院が新企画として打ち出した「胃癌患者などを対象としたピロリ菌自由診療外来」を紹介しています。

 この記事によると、北大病院(浅香正博病院長)は、3月1日から、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染が原因とされる早期胃癌患者などを対象に、検査・除菌を行う「ピロリ菌外来」を開設するということです。ちなみに、早期胃癌患者などは、保険診療におけるピロリ菌の検査・除菌の適用対象外です。

 つまり、冒頭にお話したように、現行の保険制度では、胃癌治療を受けた人が同時にピロリ菌の検査・除菌を受けると、公的医療保険が適用されず、癌治療分も含めて全額自己負担になってしまいます。この過重負担を回避するために、北大病院にピロリ菌専用外来を設けて、胃癌治療とピロリ菌関連の医療行為を分離し、全額自己負担をピロリ菌自由診療費に限定する作戦です。

 このような取り組みは全国初とのことです。北大病院の院長である浅香正博先生は、日本ヘリコバクター学会の理事長でもあります。同学会がまとめた「診断と治療のガイドライン」では、保険の適用外であっても、ピロリ菌感染者には除菌を行う方が望ましいとしています。今回の取り組みは、その考え方に基づいて、混合診療問題を回避する実践モデル例を示したということなのでしょう。

 日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは、胃癌、特発性血小板減少性紫斑病、悪性リンパ腫の一種の胃MALTリンパ腫のピロリ菌除菌を保険適用すべきと主張していますが、2000年に十二指腸潰瘍が保険適用になったものの、胃癌などはまだ対象外です。

 このピロリ菌外来は、週3日、1日5人の予約制で、浅香教授ら第三内科の医師が日替わりで担当する予定とのことです。検査費用は、内視鏡検査なしならば約1万5000円と設定され、検査でピロリ菌陽性と診断されると、除菌とその後の再検査を含め約2万9000円となる見込みです。これに内視鏡検査が付加されると1万2000円が加算され、この他に院外処方の薬代が5000円かかるそうです。

 費用の点はさておき、私のような法律家からすれば、実際の運営が冒頭の混合診療の原則禁止ルールをきちんとクリアできているかというところが、やはり一番気になります。

 例えば、ある腎臓癌の患者さんが、A病院で、保険適用の腎切除術を受けるとします。この患者さんが、B病院で、自由診療の活性化自己リンパ球療法を受けたとしても、現行の実務慣行上は、混合診療には当たりません。

 次に、ある乳癌の患者さんがA病院の外科で乳房切除術を受け、子宮のことも気になったので子宮癌検診を同じA病院の婦人科で受けたとします。手術は保険診療、検診は自由診療ですが、同じ病院でかかっても違う病気ですから、これも混合診療の禁止には触れません。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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