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成年後見制度と医療行為―この決定は誰のもの?

2008/12/16

 「禁治産者」や「準禁治産者」という言葉が使われなくなってずいぶん経ちました。

 かつて民法は、行為無能力者制度を設け、心神喪失の常況にあり、家庭裁判所で禁治産の宣告を受けた者を「禁治産者」とし、心神耗弱者(しんしんこうじゃくしゃ)または浪費者で、家庭裁判所によって準禁治産の宣告を受けた者を「準禁治産者」として、財産の管理を制限するとともに、その保護を図ってきました。

 禁治産者の定義であった「心神喪失の常況」にあるとは、精神的障害のため正常な認識力、判断力のない場合のことをいいます。準禁治産者の定義であった「心神耗弱」というのは、精神障害のため判断能力に欠けることをいいますが、心神喪失よりは軽く、やや成長した未成年者と同程度の精神能力を有する場合です。

 これらの制度は、彼らの行為能力を制限することを主眼とするものではなく、財産などを食い物にされることを防ぐ、つまり彼らを保護することが目的でしました。しかし、「禁治産者」や「準禁治産者」という言葉には、能力を欠いて何らかの欠陥を持つ人々というネガティブな響きがあります。よく政治評論や文芸評論などで、あまりポリティカル・コレクトネスが要求されず、平気でこういう言葉を使って論敵の酷評が行われていた旧い時代には、相手の無能力をなじる形容として珍しくもなく使われていました。

 急速に高齢化社会が進むのに伴って、認知症を患う高齢者も増え、このような語感の問題だけでなく、実質的に行為能力が制限される人々を手厚くサポートするシステムの構築が要請されています。

 そこで生まれたのが、2000年4月に新設された「成年後見制度」です。この制度改革は、「法定後見制度」として、民法で「後見」「保佐」「補助」の3制度を創設しました。これらの制度は、高齢化社会において、高齢者等の判断能力の減退した人々の契約締結などの法律行為をサポートしようとするものです。

 本人の判断能力の程度に応じた監督者(後見人保佐人補助人)を家庭裁判所が選任して、その程度に従って対象となる人を保護する役割を果たさせる制度設計になっています。

 このとき、「任意後見契約に関する法律」で任意後見制度が作られ、本人の判断能力が低下する前に本人と任意後見人になる予定の人が任意後見契約という委任契約を結ぶ形のサポートもオプションとしてできました。

 この成年後見制度がスタートしてしばらくしたころ、私は、後見人や保佐人になることの多い司法書士を中心としたNPOグループの勉強会兼シンポジウムに招待され、他の実務家や学者と一緒に、講演やディスカッションをする機会を持ったことがあります。

 そのときに、フロアから「難しい」という、質問とも嘆きともとれる声が出たのが、今回お話しする医療行為についての同意という問題でした。

 医療の現場では、昏睡状態で本人に意識を欠くときや意識があっても判断能力を欠くときには、手術を行うあるいは行わないなどの重要な医療行為を検討する際に、家族が本人に代わって説明を受け、意思決定をすることが通常です。

 成年後見制度で後見人がついているときは、その同意を後見人に求めるケースがままあります。しかし、法的には後見人等は遺言や婚姻などの身分行為や治療に関する同意など、本人の一身に専属する行為を代理して行う権限はないと考えられています。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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