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『風のガーデン』―静かに生と死を見つめるドラマ

2008/11/07

 味のある演技で有名だった俳優の緒方拳さんが、10月5日肝癌による肝臓破裂で亡くなりました。享年71でした。

 私は毎年医療系専門学校でコメディカルの卵さんたちに向けて医療倫理のシネエデュケーションとして何本かの映画を供覧していますが、その中の一本である『砂の器』で緒方拳さんが演じる篤実な巡査は、忘れられない準主人公のひとりです。

 緒方拳さんの演技は、このような善男だけでなく、『復讐するは我にあり』の主人公の殺人犯や『鬼畜』の父親といった悪役でも、われわれを魅了しました。

 その緒方拳さんの遺作となったのが、今回ご紹介する『風のガーデン』です。10月9日からで毎週木曜日午後10時からフジテレビで放送されている『風のガーデン』は、終末医療をテーマにした倉本聰ドラマです。

 東京の高林医大麻酔科准教授白鳥貞美(中井貴一)は、緩和医療のエキスパートです。有能な麻酔科医であるとともに、異性関係も華麗な45歳のこの准教授は、女性関係のもつれから妻の冴子を自殺に追いやった過去があり、既に7回忌を迎えるところです。

 そのことから富良野で在宅医療に従事する父白鳥貞三(緒方拳)に勘当され、これまで祖父のもとで21歳のルイ(黒木メイサ)と14歳で知的障害を持つ岳(神木隆之介)の二人の子供たちに会うことも許されずにいました。貞美は自らが手術不能の膵臓癌に侵されていることを知り、年老いた父が孫たちと共に、妻が残したブリティッシュガーデンを育てている富良野を訪れます。

 このドラマは、ジャンル分けすれば医療ドラマということになるでしょうが、ゴッドハンドが登場する派手なドラマでもなければ、医師チームがドラマチックに救急医療にぶつかっていく熱血ドラマでもありません。医師として治療の限界を知悉(ちしつ)している人間が、自ら病と対峙するだけでなく、同病の患者をも抱え、家族や旧友、元恋人たちと交流しながら人生を見つめ直すという、いわば等身大の医療者ドラマです。

 リアリティにこだわる倉本聰さんは、旭川で大きな英国風庭園を作っている専門家の指導を受け、撮影前に1年以上を費やして実際にガーデニングを実践したり、医療監修を務める旭川医大や日本医大に何度も足を運び、手術現場などを見学したそうです。主人公を演じる中井貴一さんの動きも、そのような下ごしらえがあってのことか、なかなかきびきびとした印象です。当地札幌も、ルイを演じる黒木メイサが実際にYOSAKOIソーラン祭りに参加して踊った場面がドラマに使われています。

 病んで死を目の前にする医師、遠くに暮らす家族と葛藤する医師、それも不倫で妻を失い、そのことで父に絶縁され、娘は父の相手と同じような妻子ある男性と付き合い、息子は知的障害を持ちながら育っていく。

 自ら末期癌に侵されながら、自分と同じ膵臓癌に加え冠動脈疾患を抱えて臨死の床にある政財界のフィクサー二神達也(奥田瑛二)を担当し、その間に友人の開業医水木三郎(布施博)や同僚医師の妻で元愛人の看護師長の内山妙子(伊藤蘭)らに支えられ人生を全うしようとする主人公貞美。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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