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『おくりびと』―納棺師と死を忌む社会

2008/09/19

 ずいぶん前に、テレビのノンフィクション番組で米国のエンバーミング作業の実際を見たことを覚えています。

 エンバーマーが依頼を受けて遺体にエンバーミングを行います。遺体の一部に小切開を施し、動脈からホルムアルデヒドを主成分とする防腐薬を注入して、全身の防腐・殺菌を図ります。また、遺体の表面も薬液で洗浄殺菌し、さらに修復作業でできる限り生前の姿に近づけます。

 このエンバーミングの歴史は、古くは紀元前にエジプトで行われた臓器摘出や薬用植物の体腔内充填、中世ヨーロッパの解剖学者の解剖準備作業にさかのぼることができますが、現代のエンバーミングは米国で19世紀後半に起きた南北戦争の戦死者を故郷に長距離輸送する必要から発展したといわれています。

 このところ日本でもエンバーミングが行われるようになってきており、エンバーミングの実施企業や解剖学者、弁護士などで組織される日本遺体保全協会(IFSA)などの関係団体もできています。

 そんな時代に、伝統的な納棺師の姿を描いた映画『おくりびと』が制作されたと聞き、さっそく連休の最終日にシネマコンプレックスに出かけてきました。

 オーケストラが解散し音楽家の道を断念した元チェリスト小林大吾(本木雅弘)は、妻美香(広末涼子)と共に東京から故郷の山形に戻り、亡き母の残してくれた古家で暮らし始めます。

 大吾が仕事を見つけようと求人誌に目をやると「旅のお手伝い」とあります。納棺会社の社長(山崎努)は大吾に「月給50万円」「実働時間わずか」「経験不問」などと好条件を告げて、履歴書も見ず即採用を決めますが、仕事はそれほど楽ではありませんでした。

 腐乱した独居死体やホテルの自殺体に体が引けてしまい、遺族の神経が鋭く尖った反応に当惑、社長は「大丈夫、大丈夫」とやり過ごしますが、初体験の大吾はパニック状態に陥り、仕事の意味を見いだすことのできないつらい心理状況に陥ります。

 そのようなカルチャーショックに遭遇しながらも納棺師をわが仕事としていく主人公に、妻は「仕事を辞めてほしい」「穢らわしい」という言葉を投げつけ、これが大吾に厳しくつらく突き刺さります。しばらくの別居を経て、妻の妊娠を知らされ幸せな日々を送る二人に、突然子供のころに別れた大吾の父についての唐突な知らせがやってきます…。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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