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白い粉と冤罪の恐怖―真犯人はどこに、そして被疑者の人権はどこに

2008/08/26

 わが町札幌では、今年に入って数度、不心得者の悪質ないたずらで、地下鉄やJRの車両が運行ストップになりました。原因は車両の中に、白い粉がいわくありげに残されていたからです。

 細菌兵器やサリンなどに対応する特殊車両や防護服を着た警察官が出動、撒かれた粉を回収して成分などを調べてみると、チョークや歯磨き粉や砂糖であることが判明しました。

 このような悪質な行為はいたずらではなく、威力業務妨害罪というれっきとした犯罪です。

 ところで、7年近く前米国で使われたのは、細菌兵器としても利用可能といわれる致死性の高い炭疽菌でした。2001年米国でニューヨークを中心に9・11同時多発テロが起きて間もなく、炭疽菌入りの郵便物が政府機関などに送られ5人が死亡する事件が起こりました。

 その後アメリカのみならず、世界各国で炭疽菌が郵送される事件が続発し、一種の「白い粉」パニックの状態になりました。日本でも郵便物の配達・開封の際には厳重な注意が呼びかけられたのは記憶に新しいところです。

 それから現在に至るまで、FBIはこの炭疽菌事件を捜査し続けていますが、先日捜査線に浮かんだある炭疽菌研究者が自殺して、事件に幕が下りそうな情勢です。

 自殺してしまったのは、米陸軍感染症医学研究所のブルース・アイビンス(Bruce E. Ivins)博士です。博士は先月の29日に、FBIが容疑者として強力にマークする中で、鎮痛薬などの薬物を大量摂取して死亡しています。

 ところで、FBIは01年に炭疽菌事件が発生した当初から、米陸軍の専門家が関わっているのではないかと考えて捜査を進めていたようです。アイビンス博士の同僚のスティーブ・ハットフィル(Steven Hatfill)博士も容疑をかけられ、かなり強引な捜査で精神的な苦痛を被っています。

 後にハットフィル博士は容疑が晴れ、FBIの不当な捜査による損害賠償を求めるとしてアシュクロフト司法長官らを提訴しました。その後、国がハットフィル博士に約580万ドル(約6億円)の賠償金を支払うことで和解が成立しています。

 そんな冤罪を生んだ過酷な捜査のせいでしょうか、アイビンス博士の兄はロサンゼルス・タイム紙に対し、博士がFBIの捜査で精神的に参っていたと証言しています。

 またCNNの報道によれば、アイビンス博士は自殺当時、以前カウンセリングを受けたソーシャルワーカーへのいやがらせや付きまとい、脅迫といった行為で、一時的接近差し止め命令を受けており、そのソーシャルワーカーが、博士は精神病院への入院歴があったと法廷で述べたそうです。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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