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クライマーズ・ハイ―そこにヤマがあるから

2008/07/18

 23年前の8月12日、帰郷した私は妻子を連れて、母の実家を訪れました。そこでジャンボ機が行方不明というニュースを耳にしました。お盆に不穏なニュースだなと思いながら帰ると、叔母から「もしかしたら旦那が乗っているかもしれない」と急な電話がかかってきました。あのとき、まだよちよち歩きで叔母の家に見舞いに連れていった長男が、今は24歳の社会人になっているのですから、まさに光陰矢の如しです。

 ロードショーが始まった『クライマーズ・ハイ』は、この史上最悪の航空機事故となった日航ジャンボ墜落事件を報道した新聞記者たちの壮絶な姿を描いた作品です。涼しいはずのシネコンも、遠いあの日々の暑さを思い出させて、映画を見ていてもずいぶんと汗ばみました。

 「クライマーズ・ハイ」とは、原作の説明によると、興奮状態が極限にまで達し、恐怖感がマヒする状態をいうとのことです。当時地方紙記者だった原作者横山秀夫氏自身が、主人公の遊軍記者悠木和雅と同じようにクライマーズ・ハイを感じたはずの原作名です。

 乗員乗客524人、うち死亡者520人という未曾有の大惨事は、全権デスクに任命された主人公悠木だけでなく、北関東新聞社の編集局全体を異常といえるほどの興奮のるつぼに変えてしまいます。御巣鷹山に登り惨状を取材した若い記者は心まで蝕まれ、数奇な運命をたどります。

 実際の墜落現場では、損傷が激しい遺体が多く、歯科治療痕でやっと被害者が特定できたケースが珍しくありません。わが叔父も遺品でやっと死亡が確認できました。

 そんな現場で、地元消防団、警察、自衛隊の救助活動の合間をぬって取材する記者たちも、それぞれに人生の物語を持ちます。仕事と人生、取材と真実、スクープと誤報、その矛盾や葛藤を胸に主人公たちが汗まみれになって取材する姿は、劇場で見ていただくことにして、ここではこれらの仕事の様変わりについてお話を続けます。

 まず、報道のコンプライアンス(遵法性)です。映画では、航空機事故調査委員会が開かれている旅館に記者が忍び込むというシーンが出てきますが、現在ではこのような取材手法はいかに取材が目的といっても、犯罪として立件される可能性大です。

 スクープの意味というのも、ずいぶん違ってきているように思われます。このところ記者クラブ問題などで、新聞報道の横並び体質がずいぶんと議論されるようになってきました。単に報道関係の記者が、他の記者の知らぬうちに重大ニュースを探り出して報道するというだけでなく、報道に携わる者がニュースをどう読み解くかということが重視されるようになってきています。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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