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メディカル・ツーリズム昨今―月日は百代の過客にして、行きかう年もまた旅人なり

2008/04/04

 ある講演会の仕事をこなした後で、懇親会でこのところの医療トレンドとして「メディカル・ツーリズム」が話題になりました。講演会の幹事先生によると、自分の患者さんが「ちょっと時間ができたので、海外にツアーかたがたPET検査を受けに行きます」と出かけたそうです。「でも、ツアーだとニコニコ出かけて行って、ここに間違いなく癌がありますなんて所見が出たらどうするんでしょうね」幹事先生はそうおっしゃいながら、ちょっと皮肉っぽく微笑まれました。

 このところ他国に手術や検査といった医療サービスを求めるメディカル・ツーリズムがわが国でも勢いを得てきているようです。

 そもそも“medical tourism”(医療観光)というと、医療費が非常に高価である米国や、NHS(National Health Service)の制度的制約から手術や検査までの待機時間が非常に長い英国などから、インドやタイ、シンガポール、南アフリカなどに手術や検査を受けることを目的とする旅行者が増加していることが話題になっているわけです。

 英米国内でも発展途上国出身の医師や看護師から医療サービスを受けるのが珍しくありません。それが医療者の母国である発展途上国で一定の水準の医療サービスが提供され、しかもその費用が国内の何分の一、うまく行くと一けた安く済むということになれば、メディカル・ツーリズムというのも人々には強い吸引力を持つということでしょう。

 同時に、開発途上国の方でもメディカル・ツーリズムは、産業振興、外貨獲得という経済政策という側面から、国策的であります。シンガポールなどには先進国の有名病院の分院という体裁もあって、手術や検査を受けた人々が先進国に帰国した後のフォローというサービスの連続性を担保しているともいえそうです。

 医療を医療サービスという形で経済学的にとらえると、原価や人件費、産業振興、国際分業などいろいろの要素から、メディカル・ツーリズムとして盛んになったとしても何らの不思議もないかもしれません。しかし、そうは言っても医療はやはり典型的な「地場産業」ではないのか?というのが自然な抵抗感のようにも思います。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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