日経メディカルのロゴ画像

判決の読み方(4)―医師が医師を訴えたある裁判の判決文を素材に

2008/02/08

 4日間連続の「判決文の読み方レクチャー」の最終回です。

 前回は、裁判所が皮下出血の原因は、原告が止血を十分に行わなかったせいであるところまで、読み進めました。そして、このような自然的事実の推移の認定をベースに、裁判所は過失について次のように判断します。

 まず、採血過失の有無の判断です。

2 争点(2)(本件採血方法の過失)について
(1) 採血台の使用方法の誤り
前記認定のとおり,被告Aが,原告の左腕を採血台と直角に置くように指示したことは当事者間に争いがない。
しかし,標準採血法ガイドラインでも,採血台の使用方法に特に制限はないこと(甲B5・9頁),乙B1,2号証の写真では,採血台ではないものの,採血の際に腕の下に置く腕枕を腕と直角に設置していること(乙B1,2)からすると,採血の際,採血台を腕と垂直に置いてはならないという注意義務があるものとは認められない。
よって,採血台の使用方法についての注意義務違反はない。
(2) 採血場所の誤り
ア 原告は,肘正中皮静脈がよく出ているのでそこから採血すべきであったのに,被告Aには,尺側皮静脈から採血した注意義務違反があると主張する。
イ たしかに,通常,前腕からの採血は,肘正中皮静脈(又は肘橈側皮静脈)から行うとされており,尺側皮静脈は近くを動脈と神経が走行しているので,避けることが好ましいと言われている(甲B1・2頁,甲B5・9頁,甲B6・110頁,甲B7・2枚目,甲B8・37頁,甲B9・64頁,甲B10・425頁,甲B11・126頁,甲B12・1000頁,甲B13・1573頁,甲B14・299頁)。
しかし,各種文献によっても,尺側皮静脈や尺側正中皮静脈から採血を行ってはならないとまでは記載されていない。むしろ,標準採血法ガイドラインでは,好ましい採血箇所として,通常は肘正中皮静脈から行うとされているものの,肘尺側皮静脈についても,付近を動脈及び神経が走行しており,誤穿刺の可能性があると注意喚起をしているだけで,採血を避けるべき場所としては挙げていないこと(甲B5・9頁),「特に尺側皮静脈の穿刺時は,上腕動脈を触診して位置を確認しておく」という文献もあること(甲B7・2頁)に照らせば,尺側皮静脈に穿刺する場合があること自体は認められているものと解するのが相当である。
よって,被告Aにおいて,尺側皮静脈や尺側正中皮静脈から採血をすべきでない注意義務があるとまでは認められない。
ウ さらに,本件採血の穿刺部位は,前記認定のとおり,尺側皮静脈と正中皮静脈の交通静脈であって,尺側皮静脈よりさらに正中皮静脈に近い位置にあると解されること,証人Eによれば,本件採血をした穿刺部位は,採血に適した部位であって,静脈が最も太く,分岐部に近く皮下組織についていて血管がずれない部分であることが認められること(証人E反訳書3・4,5頁)からすれば,本件採血の穿刺部位について,被告Aに注意義務違反があるものとは認められない。
(3) 採血針の角度の誤り
原告は,被告Aが,45度に近い急角度で針を刺した義務違反があると主張する。
しかし,前記認定のとおり,被告Aが急角度で針を刺したと認めるに足りる証拠はない。
よって,被告Aが,急角度で穿刺したとの注意義務違反は認められない。
(4) 不注意な針の動かし
原告は,被告Aが,採血の途中で深く針を動かしたと主張する。
しかし,前記認定のとおり,この事実を認めるに足りる証拠はない。
よって,被告Aが,不注意で針を動かしたとの注意義務違反は認められない。
(5)  以上によれば,被告Aの採血方法に過失があるものとは認められない。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

この記事を読んでいる人におすすめ