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判決の読み方(2)―医師が医師を訴えたある裁判の判決文を素材に

2008/02/06

 前回に続き、判決文の読み方をレクチャーしてきます。「争点及び争点に対する当事者の主張」の2項目からです。

 どのような争点についても、原告の主張、被告の主張は真っ向からぶつかるのが普通です。次の引用は過失論についての原告と被告のがっぷり四つの風景です。

 過失論もいくつかの争点に分かれていますが、まずは採血過失の有無です。

(2) 本件採血の方法に過失があるか。
(原告の主張)
被告Aは,本件採血に際し,採血方法として,次のような注意義務があるのに,これに反した過失がある。
ア 採血台の使用方法の誤り
採血台は,腕を固定するために中央部分が凹んだ溝型をしており,その凹んだ部分に沿って腕を置くべきであるのに,被告Aは,原告の左腕を採血台と直角に置くように指示した。このため,肘が過伸展の状態となり,肘動脈がより浮き出た。
イ 採血場所の誤り
原告は痩せており,安全に採血ができる肘正中皮静脈がよく出ていたので,そこから採血すべきであったのに,被告Aは,肘動脈損傷や神経損傷の危険が高い尺側皮静脈に針を刺した。
ウ 採血針の角度の誤り
原告は痩せているので側皮静脈のすぐ下を肘動脈が走っており,この肘動脈を傷付けないようにすべきであるのに,被告Aは,45度に近い急角度で針を刺した。
エ 不注意な針の動かし
被告Aは,血液の出方が悪くなった際,肘動脈の位置を確認しないで,更に深く針を動かした。
(被告らの主張)
否認する。本件採血後,原告の左腕に皮下出血が出たのは,原告が本件採血後,採血部位を的確に圧迫することなく,アルコール綿を穿刺部位につけたりはなしたりしていたことによるものである。
ア 採血台の使用方法の誤りについて
被告Aが原告の左腕を採血台と直角におくよう指示し,その状態で採血を行ったことは認めるが,採血台を腕と直角に置く方が肘が曲がらないで採血しやすい場合もあり,採血方法として認められた方法の一つであり,必ず腕に並行に置くべき注意義務はない。
イ 採血場所の誤りについて
 被告Aが原告の正中皮静脈と尺側皮静脈の交通静脈から採血を行ったことは認めるが,被告Aは,原告の左腕の正中や外側の静脈が細いため,最もよく出ている尺側皮静脈(内側静脈)を穿刺したものである。採血の際に尺側皮静脈を穿刺することは通常行われているものであって,それを避けるべき注意義務はない。
ウ 採血針の角度の誤りについて
被告Aは,約20度の角度で,22ゲージの細い針(外径0.7mm)を刺し,5cc程度の血液を採取したのであり,45度の角度で針を刺したことはない。
エ 不注意な針の動かしについて
被告Aは,針を深く動かしたこともない。被告Aは,放射線科を専門とする医師であり,本件採血で使用された注射針の約3倍ものゲージの太い針(外径22mm)での血管穿刺も多数経験しており,血管穿刺という手技には熟達している。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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