このところ北大の産婦人科が、医局を有限責任中間法人に移行させ、来年1月に正式にスタートさせるというニュースが新聞紙上に流れています。
大学病院の医局というのは、各診療科が医師を束ねている組織のことをいいますが、法的には法人格はない存在です。一種、鵺(ぬえ)のようなこの存在を、故・中川米造阪大教授は、「素顔の医者」(講談社現代新書)の中で次のように描写しています。新臨床研修制度が導入されまで、医局という存在は、まさにここに描かれた世界でありましたので、若干長くなりますが引用してみます。
このごろはかなり変則的になりつつあるが、つい先ごろまで日本の医者は、卒業後はほとんどが大学に残って研修をするのが一般的であった。正確には大学というよりは、大学医局に入るというべきであろう。この医局というのが、直接関係者でもはっきりした定義はないし、もちろん法規や規則にある組織ではないが、慣行としてどこの大学病院にも、また一般病院にもあって、中にはそう看板がでているところもある。
それは医者の集まる場所と思われているが、政治に関して永田町というような使い方と同じく、実は人の組織をも表している。それもはっきり定義されないまま、それに連なる医者の行動原理となっている。いわば一つの文化であり、運命共同体的な組織であるといってもよい。
あまり合理的でないので、やくざ組織に似ていると感じられるのか、医局にはいることを「わらじを脱ぐ」などと皮肉っぽくいわれることもある。単位としては、講座あるいは教室であるが、いったん入ると、生涯いろいろの義務や権利的なつながりができるという意味でも、結社的な組織である。その内容は医者の生涯をのべる中であきらかになるであろう。