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番外地としての病院――「カネがなかったら詐病」の時代

2007/11/27

 11月16日の読売新聞に、当地北海道の旭川市で起こった珍事件が報じられました。

 その事件とは、以下のようなものです。11月15日の朝、旭川市内のある居酒屋で30歳の男が、トイレで頭から血を流して倒れていたのが見付かり、救急車で病院に運ばれた。警察が傷害や殺人未遂事件の可能性もあるとみて、事情を聞いてみたがつじつまが合わない。調べを進めてみると、男は夜中の1時ごろから朝の5時すぎまで生ビールやつまみを注文(2441円相当)して飲食した。

 しかし、稚内から求職に来ていたこの男、所持金の1万円も底をついて、居酒屋に入る前に路上で拾って隠し持っていた10cmの石を飲み食い後に額に打ち付けて、 このような転倒した姿と相成った。結局、 この男は無銭飲食の疑いで逮捕されたが、「病院に運ばれれば、飲み代がチャラになると思った」と供述したという話です。頭のけがは軽症だったようですが、14日の昼間は献血をしてお菓子やジュースをもらいって空腹をしのぎ、逮捕時の所持金は6円だったそうです。

 ところで、この新聞報道では、逮捕容疑は無銭飲食の詐欺ですが、この病院は医療費を払ってもらえたのでしょうか?自傷行為ですから健康保険は効かず、すべて自費だとしても無銭飲食するしかない窮状ですから取りはぐれだった可能性大です。

 このところ病院職員が、医療費の不払いやフーリガン行為が目に余る患者を遺棄したという事件が報道され世の耳目を集めていますが、患者の詐病や詐欺行為で苦労した経験はある程度以上のキャリアのある医療者なら一度や二度は持っているでしょう。

 私も、この新聞報道の食い逃げ事例を経験したことがあります。前日、酔っぱらって受診して入院させた中年の男が、翌朝ベッドから消えていました。点滴と経過観察に1泊しただけですから大した金額の医療費ではないですが、事務が「無銭飲食」ならぬ「無銭受療」で警察に相談したり、その患者の奥さんに電話をかけたりちょっとした小台風騒ぎが起こりました。

 奥さん曰く「うちのバカ旦那は再々こんな所業をやらかすもんで、一度逮捕してほしいから被害届出すなり、告訴するなりしてください」とまるで開き直りか、妻のこのようなトラブル対応の定番モードなのか、屈託のない声です。結局、はっきりとした詐欺事件ともいえないということで、うやむやで終わりました。これは十数年前の自験例ですが、その後も新聞などで無銭受療入院で逮捕という事件や、入院後に院内で窃盗を働いて逮捕などのニュースを何度か読んだ記憶があります。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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