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トリアージの難しさ――“軽症救急”はどこへ行く?

2007/11/22

 埼玉医大総合医療センター(埼玉県川越市)が、来春から緊急性の低い軽症患者が夜間休日の時間外(救急)診療を受けた際に、8400円の特別自費料金を徴収する方針を検討していると、先日新聞各紙が報じました。

 このところ混合診療に関する東京地方裁判所の判決が話題になっていますが(2007.11.8「混合診療を認めないのは違法――東京地裁判決を読む」2007.11.12「読んでみました!混合診療の禁止は違法の判決文」)、大学病院がこのような特別の診療時間外の自費料金を徴収することは、健康保険法が認める「選定療養」という名前の公認の混合診療として問題なくできます。保険適用外となるこの軽症救急自費料金を加えると、患者は5000~6000円の負担増となります。

 ところで、この軽症救急自費料金の上積み政策のベースには、時間外受診の急増にあります。同医大総合医療センターでは、1994年に年間約1万人だった時間外の受診者が、昨年は約4万人に増加していますが、このうち入院の必要がある患者はわずか6.8%だったそうです。

 このように、専門性の高い3次医療機関に、どんどんと軽症患者が訪れると本来の機能である重症患者への対応に支障が出る。それを防ぐためにも、安易なコンビニ受診に一定の障壁を設置して、医療スタッフの疲弊を防ぎ、本来の機能を維持したいということなのでしょう。

 このような趣旨は、医療者不足で困難を極めている医療現場から見ると、それほど奇異に映るものではありません。夜間休日にコンビニ感覚で、風邪の患者さんが大学病院にたむろするというのも本末転倒のような気がします。ただ、難しいのは、プロスペクティブ(先読み的)な判断とレトロスペクティブ(後知恵的)な総括の間には、しばしば齟齬の出てくることです。

 簡単に軽症時間外といっても、「軽症」と「重症」の線引きや「緊急性」についての明確な基準はありません。診たとき、お帰りいただいたときは「軽症」に見えたが、後で「重症」だったというケースはままありえます。たいてい「後医は前医よりも名医である」というのは、この辺りの機微をよく表しています。

 医療機関の話ではありませんが、救急車のトリアージがらみでこんな事件が起こっています。昨年11月中旬、奈良県橿原市内の飲食店で酒を飲んだ男性(43歳)が、橿原署の駐車場で頭から血を流して見付かり、警察から消防に通報されました。消防の救急隊員3人は男性が飲酒して軽傷を負ったと判断して、「朝まで様子を見て病院へ連れて行くように」と病院への搬送を行いませんでした。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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