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混合診療を認めないのは違法――東京地裁判決を読む

2007/11/08

 11月6日、東京地方裁判所で「混合診療を認めないのは違法」という判決が言い渡され、今朝の新聞各紙に大きく報じられました。

 この訴訟は、神奈川県に住む清郷伸人さんという60歳の男性が、保険診療と自由診療(保険外診療)を併用する「混合診療」を禁じた国の解釈を違憲、違法として提訴したものです。清郷さんは、2000年12月、腎臓癌との診断を受け、01年に左腎の摘出手術を受けた後に、インターフェロン治療を開始しましたが、同6月には骨転移も判明し、同9月以降、インターフェロン治療に加え、免疫力を高めるための「活性化自己リンパ球移入療法」も併用されました。しかし、その後に医師から「国が禁じている混合診療に該当するので、保険外診療のリンパ球移入療法は続けられない」旨を告げられました。

 従来の国の考え方ですと、このような保険診療と自由診療を併用した場合、両者の医療行為は不可分一体として保険適用できるかどうか判断するという立場です。保険診療でインターフェロン治療のみを受ければ、本来3割負担で済むところを、インターフェロンと保険の利かない自由診療のリンパ球移入療法を受ければ、全額自己負担という扱いになります。

 これに対して、清郷さんは、「本来ならば保険の対象となる治療費まで全額自己負担させる国の制度はおかしい」と、06年3月、国を相手に提訴しました。インターフェロン療法の自己負担額は保険が適用されると、月額6~7万円とのことですが、適用外の全額負担するときは25万円ほどかかるそうです。提訴したからといって、療養環境が一変することは期待できない中で、引き受ける弁護士もいない本人訴訟の形で、癌と闘いながらの法廷闘争ですから、まさに命を削っての叫びということです。

 清郷さんの主張は、ご本人のホームページに詳細にアップされていますが(『~混合診療を解禁せよ~違憲の医療制度「混合診療で健康保険停止そして医療難民へ」』として、ごま書房から自著も出版されています)、ひとことで言うと「混合診療の禁止は法律のどこに書いているのか?」というところです。法律に明確に書かれていないのに、健康保険が使える保険診療なら患者負担は原則3割で済むのに、自由診療を合わせて行うと、保険診療分も含めてすべてが患者負担になる。このような健康保険法の運用は、憲法第14条に定める「法の下の平等」条項と第84条に定める「租税法律主義」条項に違反しているという主張です。

 ここで混合診療禁止の法的根拠という基本論点について検討してみましょう。確かに清郷さんが主張するように、混合診療の禁止について、健康保険法上直接に規定した条文は見当たりません。従来の行政慣行と、1984年の健康保険法の改正において「特定療養費制度」を設けたことで、厚生大臣の定める高度先進医療又は選定療養に該当しない保険適用外の診療については保険給付の対象とならないことから、混合診療は原則的に禁止されるというのが、国などが混合診療禁止の根拠と考えているところのようです。しばらく前に盛んだった規制改革論議の中でも、総合規制改革会議の席上では、「混合診療はなぜ解禁できない。法律のどこに根拠があるのだ」という委員たちの前で、厚労省の官僚たちが必死で対応している姿がありました(2003.3.17総合規制改革会議第2回アクションプラン実行WG議事概要)。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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