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アニマルメディシン――動物はすごいお医者さん?

2007/10/19

 今回は動物と医療、医学のお話ですが、獣医学の話題ではありません。動物がいかにお医者さんのごとく働くことができるかという話題です。

 十数年前に亡くなられた作家・胡桃沢耕史さんが直木賞をもらった作品が、「黒パン俘虜記」です。胡桃沢さんは、本名の清水正二郎の名前でポルノグラフィックな作品を多作した有名な作家でしたが、ご本人のシベリア・モンゴル抑留体験で直木賞を受賞されたように、軟派な筆の裏に硬派なつらい厳しい人生を抱えてこられたようです。

 この「黒パン俘虜記」(文藝春秋社刊)には、「ぼくたちにとって,一切れであっても朝の粥に入っている肉は大変な楽しみであり,その大小は1日中頭の中をしめる喜びや悲しみでもあった」(51ページ)。そして「まあ、おれたちは、ある朝、自分が死んでることに気がつくまで1日だって、仕事は休めない運命だな」(55ページ)とあきらめ、「誰も気がつかぬうちに夜ひっそり死んでる者がよく出るが、すぐ分かった。どんな場合でも、それまで体中にびっしりとまつわりついていた虱(しらみ)が一斉に逃げ出す白い列が見えて確認された」(34ページ)というような凄惨な収容所生活が描かれています。

 このように人が死ぬときに、あるとき一斉に蚤(のみ)や虱が逃げ出す事実は、他の抑留経験者の手記や、あるいは戦後の焼け跡で行き倒れた人々の死に際を描いた文章によく出てきます。蚤や虱は、医者より鋭く死への突入を知る能力を持っているようです。

 先日は、米国だかの病院で、ある猫が臨死患者のこのような刻を知るようで、そのようなときに患者の足下にまとわりつくように寝るようだと報じられました(2007.7.28「死期を知らせる猫:オスカーという猫の1日」を参照)。格別、猫ならばみんなこのような能力を持っていると考えられているわけではないようですが、実際のところはどうでしょう。

 ある愛犬家は、多頭飼いのうちの一匹が下痢様の血便で悩んでいたとき、他の犬たちが騒ぎもしなかったので、まだ大丈夫と思ったと語っていました。確かに、犬なども同輩が死に逝くときは哀しげに泣いたり、なめたりするという話も聞いたこともあります。このような能力は、人間の方にそれを見付ける能力があったり、能力を表現させることのできる環境を提供できれば、普遍的に発見できるものなのかもしれません。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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