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医療法人制度はどこに行く

2007/10/09

 今回は医療法人制度とその制度改革についてお話します。

 人といえば、通常は大人と子供、男と女など個人(法律学では「自然人」といいます)を表しますが、法律の世界では「法人」という人や財産の集合にも法人格が認められています。今日の経済社会では、法人の方がメジャーな存在といってよいかもしれません。

 医療の世界でも、法人はメジャーな存在です。1万近くある病院のうち、院長など個人が経営する個人病院は1000に満たない数ですから、2006年に行われた第5次医療法改正の目玉である医療法人制度改革は、まさに多くの医療人に関係せざるを得ないところです。まず、医療法人制度をめぐる流れを素描してみましょう。

 医療法人に限りませんが、法人には財団法人と社団法人があります。財団法人は、寄付行為によって一定の目的の下に拠出された財産をもとに設立運営される法人です。社団法人は社員(従業員という意味でなく出資者。株式会社における株主のような地位)が資金を拠出して活動する法人で、財団法人と異なって法人や社員間で財産的な綱引きが生じます。今回の医療法人制度改革も、公益性の強化という理念の下に、この社団医療法人の財産的な基本がいじられました。

 医療法人の故事来歴をお話しすると、医療法人の発祥は1950年の医療法における医療法人制度の導入にさかのぼります。その制度導入の趣旨は、個人病院では経営者の死亡などで永続性の確保が心許ないため、経営者個人の寿命などを超えて医療機関の経営に永続性を与えることです。確かに、医療経営が法人化できれば、トップの理事長が死亡しても、後継者が次代の理事長に就任することによって事業承継はスムーズになります。

 また、事業承継だけでなく、医療経営が時代とともに順風であった高度成長のころは、節税という視点からも法人化が目指されました。とりわけ、1985年の医療法改正においては、いわゆる1人医師医療法人の制度が導入され、個人開業医も一人で法人成りすることができるようになりました。

 全医療法人約4万のうち、財団医療法人が400弱、残り約4万はすべて社団医療法人になります。この社団医療法人のうち、出資持ち分の定めのない社団医療法人は、財団法人と同じく400弱、残りは出資持ち分の定めのある社団医療法人で約3万9000。そのうちいわゆる1人医師医療法人が約3万3000です。

 出資持ち分の定めのない社団医療法人と出資持ち分の定めのある社団医療法人の違いは、社員退社時の払戻し請求権と解散時の残余財産の分配請求権が認められるかどうかです。医療法人制度も50余年の歴史を持つものとなると、経年変化から困ったことがいろいろ起こってきます。

 例えば、兄弟で出資持ち分の定めのある社団医療法人の形で病院を経営していた場合に、一方が亡くなり後継者がいなければ、出資持分について遺族には相続税が課せられ、医療法人側としては多額の出資持分の払い戻しの請求を受けることになります。この時、一般的に医療法人の資産の多くが不動産や医療機器などの固定資産であるため、現金で払い戻すことが困難となります。私も弁護士として、このような医家の悩みに何度か遭遇したことがあります。

 ところで、このような事態に備えるために「出資額限度法人」が考えられます。定款を変更して、払い戻しを出資額以下にすることにより、相続税の負担を軽くしながら、医療法人からの出資持分の払い戻しが可能にできるようにするわけです。社員が死亡退社するたびに相続トラブルが変形した形で医療法人の経営がきしむのは、世の中のためにはなりません。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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