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金子勝氏の見た日本の医療――壊れゆくセーフティーネット

2007/09/28

 去る9月10日から13日の4夜連続で、教育テレビの福祉ネットワークという番組で「金子勝の緊急点検・日本のセーフティーネット ~日本の医療はどこへ向かおうとしているのか~」という特集が放映されました。慶応大学経済学部の金子勝教授が、現場を見て歩いて報告する「緊急点検・日本のセーフティーネット」の第2弾です。

 第1弾は4月下旬に「~高齢者介護をめぐる課題について~」と題して、町長の決断のもと、全国初の24時間ホームヘルプサービスを始めたり、全室個室の老人保健施設「ケアタウンたかのす」を作り、高福祉の町を目指していたが、4年前、「福祉に費用をかけすぎる」と訴える対立候補が町長に当選し、町政が変わった秋田県北秋田市鷹巣(旧鷹巣町)などをリポートし、介護の現場のせめぎあいせめぎ合いが描かれました。今回の第2弾目のテーマは福祉から医療にシフトします。増え続ける医療費を遮二無二抑制しようとする国の医療改革が生み出している様々な痛みをリポートして、日本の医療はどこへ向かおうとしているのか語ろうとしています。今回のブログは、金子勝氏のリポートをトレースしながら、壊れゆくセーフティーネットを見つめてみたいと思います。

 このシリーズは、第1回「病院にいられない ~急増する医療難民~」、第2回「病院がつぶれる ~地域医療は守れるか~」、第3回「病院にかかれない ~危機に立つ国民皆保険~」の現場リポートと、第4回の金子勝氏の医療改革提言からなります。第1回の「病院にいられない」は、神奈川県のAさん(57歳)が、80代の母親が骨折と慢性呼吸器不全で入院していた病院から「長期入院患者を受け入れられないのでほかを探すように」と言われ、8カ所の病院を転々とするお話です。この4月にはついに転院先が見付からず自宅で介護を開始しました。しかし、やはり在宅介護は難しく、母親を預かってくれる施設を探し回りますが、在宅酸素(HOT)が必要なため受け入れてもらえず、Aさんの心身の疲労は限界に達しているようです。

 国は、高齢者の長期入院を避けて在宅での医療や介護にシフトしようと必死で、その受け皿として在宅医療の充実を訴えていますが、現状は十分な体制にはほど遠いのが実際のところです。病院にいられない一方、施設は順番待ちするほどで、タイミングよく受け入れ先の候補が見付かっても、胃瘻や気管切開など医療行為の必要な形でケアを受けている高齢者は施設にもなかなか受け入れてもらえません。そして在宅介護も十分でない中で、医療難民が生まれている。

 そんな実態を金子勝氏はフィールドワーク的に聞き取りしていきますが、急性病院の医師は「急性期が過ぎれば、置いておくシステムになっていません」と語り、療養型病院の医師は「重症の患者さんでなければ、介護施設にシフトしていただくしかないのです」と語り、介護施設の責任者は「医療行為の必要な方は、なかなかケアが難しいのです」と語ります。それぞれが心意気だけで切り抜けられない現場の難しさを隠しません。在宅医療も在宅介護も、それらを提供できる十分なインフラと家族の十分な介護力を必要とします。その気のある家族、その気のある本人があってもなかなか難しい在宅医療、在宅介護は、今後どんどんと増える「おひとりさまの老後」(上野千鶴子、法研)を支えきれるでしょうか、本当に心許ないところです。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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