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福岡・診療報酬不正請求事件から「摘発」を読む

2007/09/25

 このところブログの話題が医療不祥事ばかりで、医療者の端くれとして忸怩たる思いを禁じ得ませんが、これは私がお題を恣意的に医療不祥事にフォーカシングしているというより、実際に医療不祥事が日々連続して起こっている現実があるからです。今回ご紹介するのは診療報酬不正請求事件ですが、このような事件 も従来とは若干色合いが変わってきており、この事件もまさに時流の一つとして読みます。

 報道によると、9月17日、福岡県警は、福岡市の医療法人「聖和会安永病院の安永雅克前院長(47歳)と長田司元事務次長(53歳)を詐欺容疑で逮捕しました。逮捕容疑は、2006年12月30日から07年1月4日まで、同病院の男性看護師(47歳)を急性アルコール中毒で、06年12月30日から07年1月3日まで、同病院系列の医療機関の女性介護支援相談員(41歳)を急性胃炎で入院したように装い、診療報酬明細書を偽造して、福岡県社会保険診療報酬支払金から診療報酬計約19万1000円を詐取した容疑です。実態はレントゲンを撮るなどしただけで、実際に診察も受けず、入院もしていなかったといいますから、「カラ入院」による診療報酬不正請求事件という形の詐欺事件です。

 警察の捜査では、病院職員や系列医療機関の関係者延べ280人が「入院」したことになっているとのことですが、取り調べを受けた複数の職員が「(元)院長 から書類上の入院を強要された」と供述し、従わない従業員には配置転換や降格を示唆して応じさせていたといいますから、相当悪質な所業です。警察は、280人のうち多くが架空入院だったと見て捜査中ですが、今後余罪というか、正確なカラ入院人数や被害総額の解明に進むものと思われます。

 ところで、この診療報酬詐欺事件には、プレリュード(序曲)があります。この自院職員入院でっちあげ詐欺が発覚する前月である8月、交通事故を装った保険金詐欺グループの捜査から、今回の長田容疑者らが、この架空の交通事故に絡み、実際には行っていないリハビリ治療などをしたように装う虚偽の診療報酬明細書を作成し、保険会社から診療費を詐取した事件が発覚しています。そのときは、今回逮捕された元院長は、処分保留で釈放されていますが、患者らは、交通事故を装って保険金詐欺を繰り返していたグループのメンバーで、警察の調べに対し、「病院側も保険金詐欺だと知っていたはずだ」と供述しているとのことです。今回のこの事件と重ね合わせてみると、この病院の経営がかなりダークな手法で維持されていたことがうかがわれます。

 さて、このような医療機関や医療者による保険金詐欺や診療報酬詐欺は、格別今に始まったことではありません。いまだ記憶の新しいところでは、1997年に大阪地検が立件した有名な安田病院事件があります。この事件は、理事長が政界や官界に金をばらまいて(大阪市職員は収賄で立件されました)顔を利かせ、医学研究財団を作り社会的貢献の外形も装っており、また大阪一円の入院困難な境遇の患者を受け入れる安田病院の機能が社会的入院の受け皿となっていたなど、コンプライアンス問題としては周囲の目に余りながら、当時の医療制度の陰の部分として長期間立件されないという形で事実上許容されてしまっていました。しかし、97年6月に健康保険改正法が成立し、自己負担比率が引き上げられ、国民全体の負担増が2兆円にも上ることとなったことにシンクロするかのように司直の手が伸び、安田病院はこの世から姿を消すこととなりました。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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