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SiCKO鑑賞記―マイケル・ムーアの描いた光と陰

2007/09/11

 先週の日曜日、マイケル・ムーア監督の「SiCKO」を観てきました。誰か医療従事者に会うかもしれないと予想はしていましたが、大学の同級生と出会うとは思ってもみませんでした。彼の勤務する病院系列も、昔とは違って理念が先行するどころか、独立採算制に力が入っていると聞いていましたが、「本当に楽じゃないですね」と決して週刊誌のお話が嘘ではないことが分かります。

 上映早々、スクリーンに吸い込まれました。当サイトの試写会記にもあるように、2本の指を切断した大工職の患者が、数百万円相当という高額な医療費を眼前に、1本の接合手術を断念したエピソードや、保険会社に無断で救急車を呼んだとして保険給付を拒絶された女性のエピソードなど、さすがに日本では「まだそこまで行ってなくてよかった」という実話が次々と流されます。

 以前に私がご紹介した在米日系企業の社長が5年3カ月の滞米中、3年余りの間に受けた7回の心臓手術体験を自ら描いた『心臓突然死からの生還』(高松健著、時潮社)にもしっかり示されている通り、米国医療の「金の切れ目が、命の切れ目」というすさまじい現実を、マイケル・ムーア監督自ら、画面に登場して示して行きますが、仮に彼がメタボリック症候群から引き起こされる様々な大病で倒れたら、今回の興行収入もずいぶん病院に持っていかれて、下手をすると自己破産の憂き目を見る可能性も決して低くなさそうです。

 この米国医療の現実は、クリントン政権やヒラリー夫人が必死に国民皆保険の医療改革を目指したものの、これを国民レベルで排した米国の新自由主義的な競争原理だけでなく、邦貨換算すると保険料が1000万円を超すのも珍しくないほど高騰する医師賠償責任保険やそれを必要とする医療訴訟、検査や治療にコミットした医師やスタッフのフィーを各個請求していく医療費方式、その他いろいろな要因があるものと思われます。

 また、これは米国だけの問題ではありませんが、保険加入や保険金徴収のレベルではもみ手をしながら、医療費を保険で給付するレベルでは支払いを渋る、踏み倒すという公的保険、民間保険を問わない保険制度の持つモラルリスクがあります。告知義務違反を平気で行って、低率の保険料で高い給付を受けようとする保険加入者のモラルリスクが一方にあれば、もう一方での保険会社の保険給付の踏み倒しのモラルリスクも、病気やケガの治療の大変さをみんなで公平に負担しようという保険の理念に反します。この映画でも、保険会社の社医が医療費支払いに大なたを振るえばボーナスが出るという現実を、実際の保険会社の社医だった医師が語っています。

 ところで、私は、この映画で描かれた米国も、カナダも、英国も、フランスも、キューバも、日本の外に一歩も出たことのないドメスティックアニマルで、「どこどこの国では」と出羽の守もできない人間ですが、この映画で描かれている米国以外の外国の医療はどんなものだろうと、インターネットで調べてみました。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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